③②③ ①プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。近著に「公民連携パークマネジメント:人を集め都市の価値を高める仕組み」(学芸出版社)北國街道外枠から①旧市街34町②伝統的景観重点地区③景観まちづくり重点地区(出所)地理院地図vectorに筆者が加筆して作成ファイナンス 2023 Nov. 43図6 概念図小松の近くの園町交差点が6.3万円だった。かつて最高路線価地点だった三日市町石黒紙店前は3.2万円、近隣の龍助町が4万円である。八日市町や三日市町のアーケード街はシャッターを閉めた店が多く、歩けば肩が触れ合ったと言われる全盛期の面影はない。閑散とした印象の旧市街だが、アーケード街以外の旧市街はかえって本来の魅力を取り戻した面もある。平成18年(2006)に小松市が旧市街34町の建物2,713軒を調査したところ約4割の1,086軒が町家であることがわかった。もっともその半分弱は町家でも正面を箱型に覆った「看板建築」だった。多くは昭和5年、7年の大火以降の建物だが、歴史的街なみで観光客をひきよせる金沢市街に比べても町家の密度が高い。調査を受け、市は町家の保全と再生に乗り出した。街を歩くと、「こまつ町家認定」という表札が目に留まる。平成20年(2008)に始まった制度で、小松に伝わる建築様式を持つ町家を市が認定している。切妻屋根の山折り線の棟木が道筋に並行し、玄関が道側に設けられた「切妻平入り」構造であること、1階部分の屋根(下げ屋や)があることが必須要件だ。虫むし籠こと呼ばれる格子窓、長い軒先を作るため腕木を棟からはみ出させ棚状に形成する船せがい枻もこまつ町家の特長とされる。町家風に仕上げた新築建物でもよく平成28年(2016)まで127軒が認定された。平成21年(2009)、小松市は「小松市景観条例」を制定。景観計画において、旧市街のうち曳山八町のエリアを伝統的景観重点地区に定め、歴史的街なみに向けた修景を進めている。町家の修繕や復元に要する費用の一部を助成する制度も始まった。看板建築の外殻を取り除き町家本来の姿に戻すことも支援の対象だ。町家の割合が6割を超えるエリアもあり、このうち景観まちづくり協定が締結できたところは「景観まちづくり重点地区」に指定された。材木町と、龍助町・西町のうち北国街道沿いの部分である。一段の支援を受ける代龍助町、西町、材木町を中心に、町家風景が面的に広がっているのが小松の特長だ。金沢のひがし茶屋街のようなエリアを区切った町家集積とは異なる魅力を持つ。閑散としている分、旧市街そのものが観光資源に変化しつつある。駅前も商業から教養・エンターテインメントの拠点に変わった。平成29年(2017)12月、大和百貨店の跡地に8階建の複合施設「Kこまつquare」が完成した。跡地は4年前に小松市が取得していた。3階の低層棟の2~3階には公立小松大学が入り、4階以上はホテル棟となっている。令和5年3月、駅前のホールの通称名が「團十郎芸術劇場うらら」となった。歌舞伎俳優の市川團十郎が名誉館長である。曳山を介して伝承される町衆文化に対し、こちらは劇場で演じられる伝統芸能だ。“見る”文化と“実践する”文化の両輪がこまつ町家の都市景観を背景に一体化している。わりに、「曳山」が似合う通りというコンセプトの下、新築や改築の際には伝統的な建築様式を取り入れる配慮が求められる。取り組みの結果、先行して締結された材木町界隈は最も町家の集積が進んだ観光名所となった。龍助町、西町の修景も進んでいる(図7)。両町を貫く旧北陸街道から電柱が無くなり、歩道が整備された。図7 龍助町の街なみomatsuAアズ×ZSスクエア
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