ファイナンス 2023年11月号 No.696
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ファイナンス 2023 Nov. 33齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(後編)*2) 財政法 第七条 国は、国庫金の出納上必要があるときは、財務省証券を発行し又は日本銀行から一時借入金をなすことができる。 (2) 前項に規定する財務省証券及び一時借入金は、当該年度の歳入を以て、これを償還しなければならない。(3) 財務省証券の発行及び一時借入金の借入の最高額については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。ことになって、FBは全部マーケットで出しましょうという方向に変えることになりました。服部 一般会計の資金繰りのために出す短期ものは、全部マーケットで出そうということになったんですね。たしかに国債課の人は、FBは国債じゃなくて、TBは国債だという言い方をしますが、実際国債ではないわけですね。T-Billという形で出てくるものには、TB(割引短期国債)と、FBの2種類がありますが、その違いは投資家には認識されていないわけです。齋藤 そうです。あくまでも国の予算制度上の整理であって、投資家の方には違いは認識されていないと思います。国債発行計画に出てくる国債は、国の資金調達のなかでも、年度をまたぐものなんです。予算上、歳入としてカウントされるものが国債です。一方、FBは、年度の中のお金の過不足をまかなうためのものなので、FBは年度内に償還することが原則です。したがって、そもそも性質が違うんです。もっとも、日本の財政制度は更にややこしく、それは会計によって定義が違うことが一因です。一般会計の資金繰り証券は、当該年度の歳入をもって返さないといけません*2。外為特会のFBは1年以内に返せばよくて、年度をまたげます。服部 昔は別々だったのが、統合されることになって、今ではその違いは認識されていないということですよね。そもそも、FBがまず市場で取引されていなかった時代があって、その理由は日本の円の国際化と結びついているのがポイントですよね。面白いところです。齋藤 1998年くらいに、円の国際化に関する報告書が出されていて、そこにはFB市中公募とか、国債の非居住者向け非課税制度の創設も、提言に入っていたはずです。服部 2013年に特別会計法の改正がなされていますが、それと同時に、日銀による貸し出しに係る制度もつくられていますね。それらは並行して行ったんでしょうか。齋藤 特別会計法の改正は、タイミングとしては私が課長を離れた後だったと思います。この法律の改正は、財務省全体でいうと主計局の法規課の担当ですが、当時の法規課長とは色々相談して、いわゆる前倒債の発行収入金の計上の仕方などを改正したわけです。それに加えて、私の国債企画課長最後の年にやったことは、日銀と話をして、BCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)という、市場から資金調達できないような不測の事態が起こった緊急時には、日銀から一時的にファイナンスしてもらえるような仕組みを作った上で、10兆円以上抱えていた国債整理基金特会の積立金の残高を3兆円まで減らす、ということです。3兆円というのは、多くの国債の入札1回分を賄える規模で、入札1回分くらいは日銀に頼らず財務省が自力で何とかできるようにしているということです。国債整理基金特会については、その残高や剰余金が埋蔵金だと言われ、事あるごとに国債の償還以外の用途に使ってしまおうという圧力にさらされがちでした。しかし他の目的で使うというのは不健全ですし、また素直に考えれば、不測の事態に備えて手元に持っている10兆円も、元をたどれば国債の発行で調達した10兆円なので、金利負担が発生しています。他方で、その10兆円はもしもの時には使えるようにしておかなければならないお金なので、長期固定で運用もできず、どうしても短期で運用することになります。長期金利で借りたお金を短期金利で運用するので、イールドカーブが右上がりだと考えると、長短金利差分だけ損してしまうわけです。そこにはやはり無駄があることは確かで、手元資金はできる限り減らして、資金繰りは効率化したいわけです。先ほどの話に戻りますが、FBは日銀が制度的に引き受けられるんです。外為の介入資金以外にも、一般会計の資金繰りのFBも昔は日銀引受でやっていたわけですから、いざという時にはFBを出すことで賄える部分については、最後日銀に助けてもらえるわけです。ただし国のお金は会計によって分かれているので、例えば特別会計でお金を借りていて、満期が来て借り換えなければならない時に、お金がなくその特会はFBも出せないとなった時に、余裕資金として国債整理基金の側がお金を持っていないと、万が一災害な

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