個人向け国債服部 ところで、個人向け国債はどういう意図で導入されたのでしょうか。色々な人に投資してもらった方が国民の理解が得られるということでしょうか。齋藤 もともと個人向け国債を導入したときの意図としては、国債を安定的に保有してもらえるような主体の確保ということがありました。市場性の国債の買い手である機関投資家、金融機関は、金融環境やマクロ経済環境の変化に応じて、売ったり、買ったり、色々なことをするので、大きい金額が常に動く訳です。買ってくれる分にはいいんですが、売られることもあって、相場が不安定になるリスクが切っても切り離せないわけです。対して、個人はそこまで頻繁に売ったりするわけではない、という印象です。銀行に預けて預金に置いておくのと同じように、個人向け国債を安定して持っていてもらえるのであれば、国債の安定的な保有層として期待できるのではないかと。商品性としても、元本割れしないような仕組みをつけることで、解約の手続きは面倒かもしれませんが、預金で置いておくよりは少し高い利息がつくし、他方で株などの純粋な投資をする場合に比べるとリスクが少ないので、低リスクで安定的な運用商品として、一定程度個人の購入が期待できるのではないかということで導入しました。残念ながら、もともと狙っていたところまでは売れていないというのが現状です。服部 個人向け国債は、発行額も少ないし、市場よりも少し高い金利を払っていて、途中で解約できるという商品性ですよね。しかも借換債でしか発行しないということなので、主軸ではないものの、継続して発行するラインナップの1つとしている、ということですね。齋藤 たしかに個人向け国債は発行額が少なく見えますが、もとの国債残高が大きいですから、比較すれば小さくなってしまう面はあると思います。購入単位も普通の国債の市場での取引だと1億円以上からですが、個人向けなら1万円から買えます。個人の方は人数も多いですから、ちりも積もれば山となるではないですが、一人当たりは少額でも合計ではそれなりの金額になります。個人向け国債という商品は、日本だけのものではないんです。アメリカはTreasury Directといって、財危機時における日銀からの一時借入制度の導入服部 齋藤様が課長時代に、日銀から財務省が短期的に借りられる制度改正がなされたと思います。それについては当時、財務省内ではどういった議論が起こっていたのでしょうか。齋藤 そうですね。財務省はかつて、国債や借入金の償還を行う国債整理基金特別会計で10兆円を超える基金を持っていたんですよね。残高を積んでおいたら、それは埋蔵金じゃないかという批判が起こりました。なので、それを圧縮すると同時に、日銀から財務省が短期的に借りられる仕組みを作ったのです。服部 日銀サイドとしても、日銀から貸し出すなんてことはできるのかと、色々な議論があったと聞いています。齋藤 先進国では一般に、中央銀行は政府に対し直接ファイナンスをしません。例外として、為替介入のときに、日銀がFB(政府短期証券)を引き受けたりはします。短時間で何兆円かのお金を手当しなければいけない緊急時に、マーケットで資金調達して、みたいなことをやっている余裕はないですから。ただ、それはものすごい例外というか、法律でやって良いケースが限定されているわけです。服部 昔は、日銀がFBを直接引き受けていたわけですよね。齋藤 そうです。介入以外のFB、つまり国庫の資金繰りのFB等も日銀が引き受けていたんです。それが、円の国際化の文脈で、短期市場を拡大させようという務省による国債のインターネット直販があって、個人向けに国債を売ったりしているんですよね。日本もそこまでやろうかという話もあったんですけど、システム構築コストなどを考えて、そこまでやらずに今のような、商品性としては普通の市場性国債とは違う一方で、販売チャネルとしては市場性国債と同様に、一般の金融機関の窓口を通じて売ってもらうという形に落ち着きました。各国それぞれ何かしら個人向けに特化した国債を出していて、市場で売買される国債だけではなくて、安定的な保有層として個人投資家・家計部門に期待しています。日本も品揃えとして、個人投資家をターゲットとするような商品を出しています。 32 ファイナンス 2023 Nov.
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