ファイナンス 2023年11月号 No.696
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ファイナンス 2023 Nov. 29齋藤通雄氏に聞く、日本国債市場の制度改正と歴史(後編)くいということだと思います。齋藤 当時は、10年債でいうとまだシ団制度が残っていました。シ団が固定シェアで引き受ける部分がどんどん減って、入札で買い手が決まる部分の割合が高まっていった時期です。一方で、PDが入る前で応札義務とか落札義務がない時代ですから、シ団引受の10年債の入札部分にしても、それ以外の年限の単純な入札で出しているものにしても、入ってくる札が少なければ当然未達になります。それで10年債の入札の札割れが起きたということだと思います。国債の安定消化ということを考えた時に、そもそもシ団が引き受ける分の年限の国債しかなかった時代は、シ団が全額引き受けてくれるのであれば、それで全額消化がある種約束されていたわけです。その後、シ団の10年債も入札で決まる部分が次第に増えていきましたが、シ団債の分は、入札で未達が生じたときの募残引受義務はシ団側にあるので、本当に資金調達不足が生じることにはならない仕組みだったんですよね。それに対して、中期国債とか超長期の国債等の完全公募入札の国債は、札割れになったときに、誰かが引き受けてくれる保証は全然ありません。札割れが生じ得ますし、実際中期国債の札割れは起きていたと思うんですよね。私が担当していたときは札割れはありませんでしたが、それよりも前に、実際に発生した事例が何度かあったと思います。こういった時に、じゃあ安定消化の仕組みをどう設計していこうかと考えると、いつまでもシ団に頼るのではなくて、やっぱり諸外国がやっているように、応札・落札義務を伴うPD制度を入れた方が良いということになりました。服部 確かに、PD制度が入った1年半後ぐらいにシ団は廃止されていますね。このあたりから、今の2、5、10、20、30年という年限が形作られて、PD制度もできたので、2023年の今ある形がこのタイミングで形成されたということですね。ざっくりとした質問になってしまうのですが、当時3年間日本の国債制度改革を担当されていた時に、政策担当者としてどういう思い、思想で取り組まれていたのかということをお聞きしたいです。齋藤 元々国債課の課長補佐として着任して当時の幹部・上司から与えられた宿題が、日本の国債のマーケットをちゃんとグローバルに通用するマーケットにしろという宿題でした。なので、それを一生懸命やっていましたね。服部 海外の事例の分析もそういう観点でされていたんですよね。齋藤 そうです。といってもアメリカの事例研究がほとんどです。OECDに、国債発行当局者が集まる会議・ワーキングパーティが年に何回かパリであって、私はそこの会議にも出ていました。なので、各国の発行当局者がどう考えているのか、直接意見交換する機会がありました。安定的な資金調達のためには、入札のテクニックだけではなくて、セカンダリーマーケットの流動性を高めることにつながるような発行をやっていかなければいけなくて、それこそ銘柄統合、リオープンを行うことが大事です。私が課長補佐の時、2001年だったと思いますけど、その時にいわゆるリオープン方式に変わりました。服部 それまで、銘柄統合そのものはありましたよね。齋藤 ありました。昔の銘柄統合も、既に発行されている銘柄について、翌月もう一度同じものを出すという点では、リオープンと同じです。ただ、銘柄、すなわち第何回債という回号は一緒なのに、第1回目の利払いまでは、既発行分と翌月の追加発行分で、事実上別銘柄扱いされていたんです。なぜなら、1回目の利払い日がくるのは大体発行日から半年後になります。そうすると、その国債の第1回目の利払い日に受け取る利息の金額は、6ヶ月分の利子ですよね。そして、翌月も同じ銘柄で発行する場合、昔の銘柄統合だと、1ヶ月後の発行日から起算した5ヶ月分で第1回の利払いをする形になっていました。だから同じ回号がついていても、前月分か今月分かで、初回の受取利息が6ヶ月分か5ヶ月分か違うので、別のものとして管理しないと、おかしなことになってしまいます。利払い日が来た時に、何ヶ月分の利子を払えばいいのか分からなくなってしまうんです。一方、リオープン方式というのは、1ヶ月後に同じ銘柄で発行する場合、発行のタイミングで1ヶ月分の経過利子を最初に投資家が国に払い込みます。それで、国は、6ヶ月分の利子を利払日に払います。結果、国も投資家も損得なしになるわけです。そうすると、6ヶ月分の利払いがつく同じ回号の国債が、先月と今月発行されることになる。発行された瞬間から、完全

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