写真 2 大空幸星さん(NPO法人あなたのいばしょ理事長)成田係長 政府が出す統計を見ると、自殺の原因・動機などの集計や分類がなされていますが、こうしたデータについて何か問題に感じていることはありますか。大空幸星さん 強いて言えば発表する省庁によってデータに乖離がある場合があります。ただ、世界と比べたら日本は、データが非常に充実しているとは思います。日本中のどこであっても自殺が起きた場合は原票が作成され、それらが取りまとめられ翌月には統計データ化される、こんな国は他にありません。このデータを使って分析できる状況にあるのに、それを活かせていないのは非常にもったいないと思います。吉岡主任 国の予算では、当初想定されていなかった事態が発生した場合、補正予算が編成されます。通常は数兆円規模ですが、コロナ禍では数十兆円規模の補正予算が編成されました。時間をかけてじっくりと議論する当初予算と異なり、極めて限られた時間でそれだけ大きな予算を組まなければならないため、ここでも効果検証の議論は後回しになっていたと思います。もちろん、危機対応ですからやむを得ない面はありますが、もどかしい気持ちもありました。大空幸星さん 孤独・孤立対策に関わっていて、先日、孤独・孤立対策推進法が成立しました。ここに関わるにあたって、自殺対策の教訓も踏まえて、ちゃんと政策の目的をはっきりさせようと、すなわち政策のアウトカムをしっかりと定めて効果検証をやる形にしましょうと思いました。そのためにはまず、「孤独」とはこういう状況で、「孤立」とはこういう状況であるといった定義づけが不可欠だと主張してきました。しかし、行政にあっては定義づけを行うと、定義から外れる人が出てきてしまい、なかなか難しいという側面にぶち当たりました。孤独や孤立とは誰しもが感じることがある普遍的なものであり、だからこそ客観的な指標を用いて定義づけを行うことが必要と思ったのですが、それができていない点は課題だと考えています。必ずしも全ての政策に対して効果検証すべきという訳でもないと思いますが、例えば一定額以上の予算が使われているものは実施するなどの基準は必要ではないかと思います。吉岡主任 全ての政策で一律に同じような効果検証を ファイナンス 2023 Nov. 11量は確実に増えており、理論的には、コミュニケーション量が増えれば人の社会的な繋がりは強くなるはずです。しかし、そうなっていないのは、コミュニケーションの質や形態に問題があるのではないかと思っています。吉岡主任 主計局文部科学係の吉岡です。私は私立学校予算の査定を担当しています。自殺白書を見ると様々な自殺対策の施策が盛り込まれていますが、個々の施策が具体的にどのような効果を持つのかはあまり分析されていないように思います。自殺者数については、金融危機が起きた1998年頃に3万人超まで一気に増えた後、2000年代は横ばいで推移していましたが、2010年代は減少傾向に入って足もとでは2万人まで減ってきています。自殺者数は社会経済情勢などに大きく左右される点は考慮しなければなりませんが、この時期にとられた政策が自殺者数の減少にどのような効果をもったのか検証することも重要だと思います。大空幸星さん 2006年に自殺対策基本法ができたので、それ以降減っているということだと思いますが、個々の政策の効果検証はあまり行われていないというのはおっしゃる通りだと思います。この法律は、NPOが声掛けをして、議員立法として作られたもので、ストーリーで動かされてきた面があります。当時は自殺者が年間3万人を超えたという緊急事態の中で、「効果検証は後回しでとにかく目の前の人々を救う」というスタンスでやってきたもので、それ自体は間違ってはなかったと思います。ただ、政策の構造としては、効果検証のできるやり方を組み入れるべきだったし、今からでもエビデンスを元に検証していく必要があるとは思います。
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