ファイナンス 2023年10月号 No.695
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輸出・輸入共通輸出のみ輸入のみ(出所)財務総研リサーチ・ペーパー『「輸出入申告官署の自由化」制度の利用実態について』、P.7の図表3データ項目の名称申告情報を輸出入者毎に把握貨物の輸送形態(航空貨物か海上貨物か)を把握申告した税関官署を把握貨物を蔵置した税関官署を把握自由化申告か否かを把握申告ベースのデータセットを作成輸出申告した日を把握輸出貨物の申告価格を把握輸出入者番号システム区分申告税関官署コード蔵置税関官署コード自由化表示欄番号輸出申告年月日申告価格合計申告時通関業者コード輸出申告時に利用した通関業者を把握仕向国コード申告申請年月日関税課税標準額計通関業者コード積出地コード代表税番輸出貨物の仕向国を把握輸入申告した日を把握輸入貨物の申告価格を把握輸入申告時に利用した通関業者を把握輸入貨物の積出国を把握輸入貨物の品目分類(HSコード)を把握1.自由化率は、輸出入とも増加2.自由化制度利用の判断には、(輸出入者よりも)通関業者の影響が大きい可能性3.自由化制度利用に伴い、申告官署だけでなく蔵置官署も集約される傾向4.自由化制度の利用により、台風災害時における申告件数の減少が抑制利用目的(注)2017年第4四半期は10月8日以降のデータ(出所)財務総研リサーチ・ペーパー『「輸出入申告官署の自由化」制度の利用実態について』、P.9の図表4-1及びP.10の図表5-1図表1:分析に利用した主なデータ項目図表2:自由化率の推移 84 ファイナンス 2023 Oct.分析ではまず、自由化制度利用の経時的変化を把握するため、自由化率の四半期毎の推移をグラフ化しました。その際、輸送形態(航空貨物か海上貨物か)や申告価格、貿易相手国等の貨物の特性によってカテゴリー分けを行い、各カテゴリーにおける自由化率の推移も確認しています。また、自由化申告を行った企業に着目しつつ、自由化制度を特徴づける「AEOの取得」及び「申告官署・蔵置官署」という2つの切り口から見た自由化申告の特徴について、ヒストグラムや箱ひげ図、散布図等のグラフを用い可視化しています。最後に、自由化制度の災害時の事業継続への活用に関して、近畿地方に甚大な被害をもたらし、関西国際空港を中心に物流停滞を引き起こした、2018年の台風第21号に焦点を当て、差分の差分法を利用した回帰分析による因果推論を行うことで、「台風災害時の被災地(関西国際空港)における輸入申告について、自由化制度を利用することにより、申告件数の減少が抑制された。」という仮説の検証を行いました。分析の結果得られた知見を簡潔に紹介すると、次の通りです。1.について、図表2にあるように、制度開始日である2017年10月8日から2021年末までの期間において、自由化率は輸出入とも上昇傾向にあります。輸出と輸入を比較すると、全期を通じて自由化率は輸出の方が高く、また自由化率の上昇度合いも輸出の方が高いため、自由化制度は輸入よりも輸出において、より利用されてきたといえます。この理由としては、輸入申告の多くを占める、「マニフェスト申告」と呼ばれる簡易的な申告の自由化率が比較的低いことや、輸出申告時には、輸入申告時と異なり関税等の納付手続きがなく、貿易事業者にとって申告官署と蔵置官署を切り離した業務が実施し易いこと等が考えられます。この他にも、輸出入とも、申告価格が大きいほど自由化率が高い傾向があることや、短期的に自由化率が急上昇した時期が複数存在すること等、興味深い実態が確認できました。2.及び3.について、ここでは特に興味深い分析結果を紹介します。「『申告官署』の自由化」というその名称もあり、自由化制度の利用により、貿易事業者の輸出入申告に関連する業務の集約が行われ、結果、申告官署が集約(申告官署数が減少)することは、想像に難くありません。他方、蔵置官署に関しては、輸出入手続きを行う申告先の変更が、直ちに輸出入貨物の蔵置場所や輸送の流れの変更を意味するとは考えにくいため、研究実施者としては集約が顕著に起こっているとは想定していませんでした。しかし、分析の結果、多くの輸出入者が申告官署だけでなく、蔵置官署(2)分析結果のポイント

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