ファイナンス 2023年10月号 No.695
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82 ファイナンス 2023 Oct.はできないか、こういうデータは取れないか等の有益なサジェスチョンを頂きました。こうしたやり方は、政策担当者及び分析担当者双方にとって有意義だったのではないかと考えています。日々各種業務で忙しい政策担当者は、膨大なデータを整理し、分析する時間がなかなか持てない一方、日々の業務を通じた現場感覚やニーズ等の生の情報があります。他方で、分析担当者には、そうしたデータを超えた情報がないところ、政策担当者と対話しながら進めていけたことで、地に足の着いた分析作業を進めていけたのではないかと思います。根岸:政策担当者から、自分が携わった施策をこのように研究してもらえるのは嬉しい、という言葉を頂き、研究を行った身として光栄に思いました。伊藤:大塚さんは、関税局での本務もある中で、財務総研の主任研究官として任命され本研究に従事されましたが、その感想を聞かせて下さい。大塚:実際にやってみて楽しかったです。本務に加えて業務が増えて、嫌々やっていたということは全くありませんでした。構想を練ったり、担当部局と相談したりしたのは2022年内でしたが、併任のための手続きや分析データの準備等もあり、実際にデータを用いた作業を行ったのは、2023年に入ってからでした。なお、私の場合は、本務としても貿易統計等のデータ分析を行っているため、本研究活動は非常に親和的だったと思いました。一方で、所属部署によっては、それなりの時間のコミットを必要とする研究に従事するのは難しいかもしれないと思いました。伊藤:職員が実際にデータ分析を行うことの意義についてどのように思いますか。根岸:データ分析の手法は、教科書を読むだけでなく、自伊藤:本研究ではどのような成果や政策的インプリケーションが得られたのでしょうか。大塚:本研究では、まず自由化制度を利用した申告(以下、「自由化申告」)が申告全体に占める割合(以下、「自由化率」)がどのように変化してきたかについて、いくつかの切り口から検証しました。その結果、自由化制度がどのように利用されてきたか、という実態が明らかになったという点は、一つの成果だと思います。また、輸出入申告を行う税関官署(以下「申告官署」)や輸出入貨物が置かれている場所を所轄する税関官署(以下、「蔵置官署」)の数が自由化制度導入の前後でどのように変化したかという動きを明らかにしましたが、自由化制度利用に伴い申告官署だけでなく蔵置官署も集約される傾向にあるという、予想していなかった結果が見えたりしました。これらの結果は、現時点では、直ちにこのような政策を採るべきという政策的なインプリケーションを与えるものではないかもしれませんが、本研究により、議論のための基礎的なデータを整理し、示すことができましたので、今後議論を深める一助となるのではないかと思っています。根岸:今回の研究は、議論をするために必要なバックデータを示したものですので、政策的なインプリケーションを求めるのであれば、例えば官署集約の傾向を深掘りした分析や、貿易事業者による自由化申告の選択メカニズムの解明等、更に踏み込んだ研究が必要になると感じています。伊藤:本研究について、担当部署をはじめ関係部局から何か反応はありましたか。大塚:研究構想段階、研究の途中、最終発表の3回程、関税局の関係部局と議論する場を設けたり、個別に担当者と議論を行ったりしました。有り難いことに、担当部局は忙しい中でも時間を割いてくれ、こういう見方

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