ファイナンス 2023年10月号 No.695
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*1) https://www.mof.go.jp/pri/publication/research_paper_staff_report/research15.pdf*2) 財務省では、常に国民の視点に立って、高い価値を国民に提供できる組織風土をつくり上げていくため、「財務省再生プロジェクト」を進めています。*3) 本研究の実施に当たってご協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。なお、本稿の内容は全て筆者の個人的見解であり、財務省および財務総合政詳しくは財務省HPをご覧下さい。策研究所の公式見解を示すものではありません。[執筆者プロフィール]伊藤 史治 主任研究官2010年4月に東京税関に入関。財務省関税局において国際協力や国際交渉業務等に携わりました。2023年7月より財務総研で勤務しています。根岸 辰太朗 主任研究官2014年4月に東京税関に入関。財務省関税局や内閣官房において国際交渉業務等に携わった他、英国へ留学しデータサイエンスを学びました。2022年7月より財務総研で勤務しています。財務総合政策研究所 総務研究部 主任研究官 伊藤 史治 主任研究官 根岸 辰太朗 80 ファイナンス 2023 Oct.24政策効果の検証事例~近年、自然災害が激甚化・頻発化する中で、サプライチェーンの寸断による国民生活への影響や経済活動の停滞が生じています。25年ぶりに非常に強い勢力で日本に上陸した2018年の台風21号(以下「台風」)は、死者14人の人的被害をもたらしただけでなく、暴風で流されたタンカーが関西国際空港の連絡橋に衝突し、人と物の流れがストップするなど、経済活動に大きな影響を与えました。物流拠点の災害対応能力の確保が求められています。財務省・税関では、適正な通関を確保しつつ迅速な通関を図るための貿易円滑化に資する様々な取り組みを実施していますが、その代表例である2017年に導入した「輸出入申告官署の自由化」制度(以下、「自由化制度」)(☞制度の概要については、P.86のコラム1をご覧ください。)については、物流を担う関係者から、「台風発生時における事業者の事業継続にも活用できた」との声があがりました。新規に導入した施策の効果を知る上で、このような「現場の声」に耳を傾けることはもちろん重要ですが、客観的なデータを元に政策の効果を「定量的に」裏付けることができれば、今後の政策の検討・実施に大いに資するものとなります。そのような問題意識の下、財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)に所属する職員が、税関が保有する輸出入申告データを利用し、台風災害時において自由化制度が貿易事業者の業務継続に与えた影響を因果推論の手法を用いて実証し、本年6月にリサーチ・ペーパー「『輸出入申告官署の自由化』制度の利用実態について」を公表しました。*1税関の輸出入申告データのように、行政機関が職務上の目的で取得した情報に基づくデータを「行政データ」と呼んでいますが、本取り組みは、財務省職員が、財務省の行政データを用いて、財務省の業務遂行のために有用な分析結果を得た上で、論文の形でまとめたものです。このように、行政データを活用した政策分析を行うことは、財務省再生プロジェクト*2の中でも、職員の経済分析能力強化の一環として位置付けられています。このリサーチ・ペーパーでは、上記の分析に加え、自由化制度の詳細な利用実態についても明らかにしています。今回のPRI Open Campusでは、本リサーチ・ペーパーに焦点を当て、研究実施者へのインタビュー等を通じ、分析結果の概要を紹介するとともに、本取り組みの意義や今後の展望等をお伝えします。*3税関の「輸出入申告官署の自由化」は、災害時の業務継続にどのような影響を与えたか?~「行政データ」を活用した財務省職員による

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