ファイナンス 2023年10月号 No.695
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20222021202020192018201720162015201420132012201120102009200820072006(注)外国生まれとは、米国に居住しているが出生時に米国市民でなかった者で、合法的移民のほか難民、臨時労働者などの一時滞在者、不法移民も含まれる。(出所)米国労働省「Foreign-born workers were a record hight 18.1 percent of the (出所)ホワイトハウス、各種報道・年間の受入難民数の上限引き上げ・DACAの維持と強化・移民ビザの条件緩和、制限措置の解除・タイトル42*7の廃止・不法入国に対する取締の強化       等コロナウイルス感染拡大を理由に発動された。90万人が移民の減少分であると言及している。概要【図表6】外国生まれの労働者の推移(比率:%)201918171615142005※1:労働力が大ければ、より多くの資本を利用でき、労働力の生産性が高ければ、資本の各単位の生産性も高くなる。※2:生産性が向上する理由の1つは、移民のイノベーションと起業家精神が平均よりも高いことにある。(注)米国議会予算局(CBO)の資料記載の図を元に執筆者にて作成。上記の※書きは、CBO記載の注書き。(出所)米国議会予算局「The Foreign-Born Population, the U.S. Economy, and the Federal Budget(2023.4)」U.S. civillian labor force in 2022」(2023.6.16)移民の増加労働力人口の増加人数(右軸)比率(左軸)設備投資増加※1生産性向上※2生産高増加(人数:万人)3,5003,0002,5002,0001,5001,0002,974万人18.1%*6) ギャラップ「Economy Is Top Election Issue Abortion and Crime Next」(2023.10.31)*7) タイトル42とは、感染症防止のために移民の入国を制限する権限を行政府に付与するもの。合衆国憲法42章に規定されており、2020年3月の新型*8) ロイター「バイデン氏支持がトランプ氏上回る、経済安定や中絶問題影響か=ロイター/イプソス調査(2023.7.20)」*9) 米議会予算局(CBO)がパンデミック前に予想した現在の労働力人口と実際の労働力人口との比較で約350万人の不足があると指摘し、このうち約 72 ファイナンス 2023 Oct.ランプ前政権からの方針転換を示す数々の移民政策を打ち出している。一方で、DACAに関してはテキサス州などの複数の州が過度な財政負担等を理由に違法性を訴え、テキサス州の裁判所が新規申請の受付け停止命令を発出するなど、バイデン政権の政策の実行性には疑問が残る。昨年の中間選挙前にギャラップ社が行ったアンケート調査では、「経済」や「妊娠中絶」「犯罪」に次いで、「移民問題」「銃規制」が選挙の第三の争点であったと報告されており*6、移民に関しては米国内での注目度も非常に高いことが伺える。バイデン政権は、不法移民の増加を念頭に国境警備の強化を含む不法入国に対する取締の強化を打ち出したが、こうした世論の関心の高さも一定程度影響していると思われる。【図表4】バイデン政権の移民政策読者の中には「移民は既存の労働者から仕事を奪う」といった移民への否定的な意見を耳にしたことがあるだろう。ロイターとイプソスが2023年7月に実施したアンケート調査でも、「有権者の約48%が移民は米国で生まれた人々の生活を苦しくするとの意見に同意すると述べた」とされており*8、一般的に抱くであろう移民に対する負のイメージを代弁した結果と言えよう。しかし、移民は米国経済の成長に資する存在である。例えば、IMFは、先進国において移民が短中期的に経済成長と労働生産性を押し上げると指摘している。IMFは「World Economic Outlook(2022.4)」の中で、「流入移民数が総雇用者数に対する比率で1%ポイント増加すると、5年目までにGDPをほぼ1%押し上げることが明らかになった」と分析し、移民流入による雇用増加と、受入れ国の労働者と移民労働者の間での補完性による労働生産性の向上を通じて経済成長が押し上げられると論じている。つまり、移民が労働市場に参入した際、受入れ国の労働者は多くの場合、より熟練した言語能力やより複雑な作業を必要とする職に移る。これにより、受入れ国の労働者のスキルが向上する一方、空いた職を移民が埋めることで、経済全体の利益に波及すると指摘している。経済成長への貢献という観点では、米国議会予算局(CBO:2023.4)も概ね同様の見解を述べており、移民の増加による労働力の増加や生産性の向上等を通じて全体の生産高が増加すると指摘している。移民は、労働力それ自体としても重要である。現在米国では労働者不足(労働需給の逼迫)に伴う賃金上昇、サービスインフレが関心事項の一つとなっている。米連邦準備委員会(FRB)の「Monetary Policy Report(2023.3)」では、この労働者不足の一つの要因として移民の減少を指摘している*9。こうした指摘も、移民が労働力として米国に必要不可欠な存在であることを示す一例と言えよう。【図表5】CBOによる移民の生産高への波及イメージ労働力による生産増加4.経済への影響*7

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