ファイナンス 2023年9月号 No.694
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久山町の遠景(遠見岳からの眺望) ファイナンス 2023 Sep. 63久山町長西村 勝1.小さなことこそ、強み久山町は、160万都市である福岡市に隣接しながらも、今もなお豊かな自然を残す町です。人口は、9,294人(令和5年6月1日現在)、この20年間で約20%増加しています。福岡都市圏では、本町よりも人口が増加した自治体は多くありますが、本町の特徴は、政策によって人口を緩やかに増加させていることです。その結果、高齢化率は2016年の28%をピークに下がり始めています。町土の3分の2以上が森林で、人口規模も小さな自治体ですが、財政力指数は0.83(令和3年度)と良好な数値を維持しています。財政力指数は、財源を生み出す力を表しており、財政力指数(単年度)が1を超えると普通交付税の不交付団体となります。年間予算規模は約60億円ですが、住民一人あたりの予算額は、他自治体が30万~40万円台であるのに対して、本町は60万円台です。今までは、小規模な自治体は非効率とも言われていましたが、私自身は、多くの富を分配できる良い規模だと捉えています。こうした現状から、本町は、SDGsを体現する町として、さまざまな方面から注目をされています。2.50年が築く、SDGsの基盤久山町は、まちづくりの基本理念に「国土・社会・人間の3つの健康づくり」を掲げ、半世紀以上にわたり継承してきました。国土、社会、人間は、それぞれ、人の住居、心、身体と捉えるとわかりやすいと思います。1970年代、日本が高度経済成長期を迎え全国で都市化が進む中、本町では、町域の97%を市街化調整区域に指定することで都市化を抑制して自然を守るなど、住民が豊かに暮らすことを第一に考えた独自の政策を展開してきました。国土の健康では、豊かな自然と田園風景を残しながらも主要道の沿道には計画的に商工業を誘致して税収を確保し、居住環境と都市的施設との境界を明確に設けてきました。社会の健康では、40年以上前から道徳教育を地域・家庭・学校が一体となり町ぐるみで推進してきました。現在も月に一度のあいさつ運動をはじめ、道徳カルタ大会や地域ごとの行事が受け継がれ、人と人とのつながりを大切にしています。人間の健康では、九州大学と60年以上にわたり生活習慣病予防健診事業を行ってきました。この取り組みは、久山町研究として世界的に広く知られており、日本の医学界の発展に大きく寄与するとともに、地域医療の発展に貢献してきました。このように長きにわたる久山町の一貫したまちづくりは、数値的な成果だけではなく、未来に向けた真っ白なキャンバスをつくってくれました。そして今、このキャンバスに何を描き、次の50年後の人々に届ける政策をどう展開していくかが、持続可能性を高める鍵になると考えています。3.まちづくりは、家づくりまちづくりは、行政だけが行っていても発展は望めません。そもそも、まちづくりとは、一体何でしょう大きな挑戦。小さな町の、 久山町

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