ファイナンス 2023年9月号 No.694
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*1) https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2022/seisansei.html宇南山 卓 京都大学経済研究所教授/財務総合政策研究所特別研究官 2004年に東京大学で博士号(経済学)を取得した後、神戸大学助教授、一橋大学准教授、財務省財務総合政策研究所総括主任研究官、一橋大学教授などを経て2020年現職。専門は日本経済論,経済統計学で、家計行動の分析や統計の質に関する研究に多数従事している。上田 淳二 財務総合政策研究所総務研究部長1994年に大蔵省(当時)に入省。財務総研においては、マクロ経済および人口構造の変化と政府財政の関係、税収および課税ベースについての研究を実施。 52 ファイナンス 2023 Sep.23財務総合政策研究所(財務総研)は、2022年11月から2023年5月にかけて「生産性・所得・付加価値に関する研究会」を開催しました。研究会では、生産性と所得に関するデータを整理することによって日本の現状を評価するとともに、生産性の上昇が所得の増加につながり新たな付加価値の創出活動に向かうサイクルをどのように実現できるのかについて、有識者からの発表等を踏まえて、活発な議論が行われました。研究会での発表内容や、それらを踏まえてとりまとめられた報告書は、財務総研のウェブサイトに掲載されています*1。本稿では、研究会の座長を務めていただいた宇南山卓京都大学教授に、本研究会の議論で特に印象的だった点等について、お話を伺いました。1.研究会の狙いと期待上田総務研究部長:生産性の議論には、付加価値をどのように計測するか、ミクロレベルでの分析とマクロレベルの要因をどのように結びつけて考えるかなど、様々な論点があり、一筋縄ではいかない複雑さがあると感じています。今回は、統計の作り方を熟知され、マクロ・ミクロ両面からの様々な研究に取り組んでおられる宇南山さんに研究会の座長を引き受けていただき、ありがたく思っています。研究会での議論を振り返りどのように感じておられるでしょうか。宇南山教授:「日本の問題は生産性が低いことで生産性を上げる必要がある」と理解している人が多いかもしれませんが、この研究会では、日本の問題が本当に生産性の低さにあるのかということを、データに基づいてきちんと検証すべきだろうと考えました。生産性は、インプット(投入)に対するアウトプット(産出)の比として定義されるものです。生産性を、物的な意味で理解すれば、何時間働いたら何個の物が作れるかということになります。しかし、実際に現実の経済活動は「円」で把握されており、正しく計測し解釈することは簡単ではありません。たとえば、生産性が低いから売上が低いとよく言われますが、金額での生産性の計測においては、分子のアウトプットとして「売上」が用いられるため、売上の低さが生産性の低さの原因となります。そのため「売上が低い理由は、売上が低いから」ということになってしまい、何も説明したこと宇南山卓座長インタビュー財務総合政策研究所総務研究部長 上田 淳二/ 総括主任研究官 鶴岡 将司/ 研究官 桃田 翔平/研究員 佐川 明那・「生産性・所得・付加価値に関する研究会」

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