ファイナンス 2023年9月号 No.694
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6 6 デジタル決済環境最後に、タイの暮らしの中で根付いている、便利なデジタル決済の普及についてご紹介します。最近は、日本でも電子マネーを利用したキャッシュレス決済が普及してきていますが、タイではもっと早くから、統一規格のQRコード(Promptpay)を用いた決済・送金が主流になっています。Promptpayは、銀行口座番号や相手の名前が分からなくても、電話番号又はIDナンバーのいずれかが分かれば、誰でも瞬時に無料で送金できるシステムです。銀行口座ごとに紐づいているところ、スマホの銀行アプリの中には、自分のQRコードや他人のQRコード読み取り機能が搭載されており、操作も非常に簡単です。導入費用が不要で、街中の屋台やレストランでもQRコードがぶら下げられているので、ほぼどこでも利用できます。*16) 厳密には、貢献党が第1党となりましたが過半数に達せず、親軍政党連合が政権を担うことになりました。 48 ファイナンス 2023 Sep.なお、平和な国であるというイメージがあったので意外だったのですが、タイではクーデターが近年に何度も発生しており、軍勢力が政権を握ることが繰り返されています。直近の政権は、2014年のクーデターに始まり、2019年に下院総選挙で勝利した親軍政党による連立内閣です*16。過去には、反軍の国民大規模デモと軍が衝突して血が流れるという事態もありましたが、クーデター自体にはタイ国民は慣れていて、クーデター政権であるか否かというよりは、物価や賃金など、生活に直結する経済面での成果を(良くも悪くも)率直に評価しているように思います。「日本の酒造はなぜ小規模で品質・経営を維持できるのか教えて欲しい。」総選挙後、タイ財務省物品税局から突然入った連絡がきっかけで、日本の酒税・関連規制と国税庁の実施する海外販路開拓を含めた日本酒類の振興策について、同局幹部の方に講演する機会を得ました。経緯を聞いてみると、前進党を筆頭とする政党連合が「酒類等あらゆる業界における独占排除・公正な競争促進」という公約を掲げていることから、酒類税制・規制を担う同局が日本の例を参考に検討を始めたいとのことでした。タイの酒業界は財閥の寡占状態であり、中小企業の参入が難しい規制となっているため、これを打破するとともに徴税基盤拡大も見込めるということで、物品税局も新たな規制のあり方を考え始めています。日本の酒造はほとんどが中小企業ですが、商品のクオリティ・ブランドを維持していること、また中小規模ならではの経営面の課題があるにもかかわらず、国税庁を中心に振興策を講じて業界全体を守っていること、等がお手本として物品税局の目に映っているようです。質問が多く寄せられ、問題意識が特に高いと感じたのは、規制緩和により中小事業者が参入することによるデメリット、つまり、違法品や模倣品の流通阻止等の酒のクオリティ管理です。日本では、国税局がサンプル調査や酒蔵への技術支援を行ったり、酒税調査において科学的分析を行いながら違法な酒との見分けを行うなど、クオリティ管理のための体制が整っています。先述のとおり、公約を掲げた政党連合は解消しており、新政権の動き次第にはなりますが、講演後も質問は継続しており、お酒の規制という面からタイ政府への協力を続けていきたいと考えています。このPromptpayは、2015年にタイ中央銀行が「国家電子決済マスタープラン(National E-Payment Master Plan)」を策定し、電子決済の推進を国家プロジェクトとして開始したことに端を発します。タイ銀行協会や商業銀行が出資する開発組織(National ITMX)が新たなモバイル決済プラットフォーム「Promptpay」を開発し、これが国家の定めた統一規格として、2017年に運用開始、現在まで普及しています。もちろん、日本でいう電子マネーに当たる、民間決済事業者が提供するe-walletも複数存在するのですが、登録者数は圧倒的にPromptpayに軍配が上がります。普及状況については、PromptpayのID数は2021年末で約6,900万ID、2021年のデジタル決済総額にPromptpayはじめモバイル・インターネットバンキングが占める割合は78%となっています。また、Promptpayは2021年4月よりシンガポールの即時リテール決済システムPayNowと連携することで、クロスボーダーでの送金にも対応しています。国(2) 新政権の動きに対応するタイ財務省物品税局

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