ファイナンス 2023年9月号 No.694
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〈選挙看板で政策や自身・政党の番号をアピール。〉〈ピター前進党党首のインスタグラム投稿〉選挙看板*15) 上院は非公選で、ほとんどが親軍派です。上院は250議席のため、上下両院合同会議において首相選出されるためには、両院合わせた議席の過半数(376議席)が必要で、ピター党首が選出されるためには一定数の上院議員の賛成が必要。不敬罪改正への嫌悪を示す上院議員が多く、ほとんどがピター氏不支持という結果に終わりました。また、今回の下院総選挙で勝利した前進党は、SNSでのアピール戦略が功を奏したといわれています。ピター党首は42歳と若く、インスタグラムやTikTokを巧みに操り、若者(Y―Z世代)の支持をうまく獲得しました。 ファイナンス 2023 Sep. 47コラム2タイにおける選挙運動写真ピター党首のインスタグラムタイでは日本のようなポスター掲示の指定場所があるわけではなく、選挙期間中は街中で無造作に立て看板が現れます。一応、車がよく止まる交差点ではたくさん置かれていたりするので、注目ポイントを選んでいるように思います(「こんな路地に設置する意味ある?」というものも多々あり)。有権者の投票方法は、選挙区における候補者と政党自体に対して行いますが(小選挙区比例代表並立制)、各候補者の選挙区内における番号と、各政党の共通番号が割り振られており、有権者は2つの番号を記入します。そのため、各政党・候補者は自分(たち)の番号を覚えてもらうよう、政策とともに看板や演説でアピールします。において、ピター党首が首相選出に必要な過半数賛成票を得ることができませんでした*15。その後もピター氏のメディア株式保有による憲法違反の疑い(憲法裁判所で審理中)や、一度否決された議事は再度上程することが許されない(一事不再理)との国会規則適用の結果、ピター氏の再度の首相選出馬が不再理として許されず、この扱いの合憲性が憲法裁判所に請求される等、様々な事態が生じて首相選出が延期されました。結局、一事不再理の適用について憲法裁判所が訴えを却下し、違憲判断を下さなかったため、第2党の貢献党に首相選の出番が回っています。これらの動きは、最初の首相選が行われた7月13日以降の1ヶ月余りで次々に報道され、連日めまぐるしく状況が変わっていきました。そして、本稿執筆中の8月22日、前進党との連立を解消し、新たに保守派・親軍政党との連立を発表していた貢献党から、セター氏が上院の支持を得て首相に選出されました。現行体制からの脱却を望んだ多くのタイ国民からすればがっかりする結果となりましたが、今後の政治運営において、タイ国民の支持をどれほど引き寄せられるかが重要になりそうです。今後タイ政治がどのような方向に進んでいくのかは、まさに分岐点の瞬間であるといえると思います。

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