ファイナンス 2023年9月号 No.694
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(憶,タイバーツ)(憶,タイバーツ)<グラフ7タイへの直接投資>タタイイへへのの年年間間のの累累積積投投資資額額((年年かからら年年))日本中国(備考)タイ()のデータより作成タタイイへへのの直直接接投投資資額額のの推推移移((各各年年))日本中国令和5年2月6日在タイ日本国大使館〈グラフ7 タイへの直接投資〉 46 ファイナンス 2023 Sep. 5 5 政治情勢(1)下院総選挙と混迷する新政権樹立の動きタイの政治における大きなイベントとして、今年5月に下院議員総選挙が実施されました。結果は、軍の影響力が強い与党・保守政党が敗れ、野党政党が大きく勝利。印象的だったのは、投票率75%(過去最高)と、若者を含め国民の関心が非常に高かったことです。それもそのはず、直近の政権が2014年にプラユット陸軍司また、タイは15年以上の財政赤字が続いており、今後は少子高齢化による歳出増加や歳入減少に備える必要が世銀エコノミスト等から指摘されています。紙幅の関係で詳しく紹介できませんが、タイ税制において、個人所得税の税収全体に占める割合は低めです。13~21年度の税収に占める個人所得税の割合は12.2~13.7%で推移していますが、これはアジア・太平洋諸国平均(16%)、OECD加盟国平均(24.1%)と比べて低い水準です。税制改革を含めた税収拡大のための方策も必要との指摘を受けやすく、また今後重要な課題となる可能性があります。そのような状況の中、後述する今般の下院総選挙では、多くの政党からばらまき政策がマニフェストとして出てきて、現地のシンクタンクや財務省、タイ中央銀行からも厳しい指摘がなされるほどでした。令官(前首相)のクーデターにより成立して以来、いわば親軍政党内閣であったところ、政治家の汚職増加やコロナ禍の経済対策への不満、反政府・反王室の社会改革を掲げるデモの発生など、現行体制への不満が拡がっていたため、与党敗北の結果が大方予想されるタイミングでの総選挙でした。話題の中心は、タクシン元首相の地盤と影響力を背景とする貢献党にありましたが、タブーである王室に対する不敬罪改正や徴兵制廃止など、タイに深く根付く古い体質の刷新を掲げた前進党が、不満を持つタイ国民の幅広い支持を得て第1党(151/500議席)となりました。貢献党の大勝利ではなく、より急進派である前進党の躍進は誰もが予想していませんでした(貢献党は141/500議席となり、第2党)。もっとも、筆者の周りでは、例えば大使館タイ人スタッフは皆、カリスマ性がありタブーに斬り込んでいくピター党首を支持していましたし、住居アパートの若いタイ人スタッフも「ピターならこの国を変えてくれる」と言っていました。バンコクの小選挙区の結果は、前進党が驚異の32/33議席獲得でしたが、周囲の状況をみると納得です。同時に、ここまで熱狂的な支持を獲得したピター党首の手腕に感銘を受けました。しかしながら、下院第1党が首相の座に就くことが約束されないというのも、タイの首相選出のしくみです。選挙後、前進党は貢献党ほか旧野党連合を結成し、連立政権を目指しましたが、上院も参加する両院合同会議

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