ファイナンス 2023年9月号 No.694
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輸出の鈍化によりコロナ前水準を下回る(%)<グラフ3タイの状況>(%)タタイイ成成長長のの推推移移((前前年年比比・・前前期期比比))前期比前年比(備考)のデータより作成。右は季節調整値の水準のデータを使用。水水準準ののココロロナナ前前かかららのの比比較較(年とした場合の水準)〈グラフ3 タイGDPの状況〉 44 ファイナンス 2023 Sep.2023年のGDPを3.6%と予測しています。泊・外食」、「交通・運輸」がコロナ禍前の約9割まで回復しています。もっとも、GDPの3割を稼ぐ製造業の生産額は伸び悩んでいます。また、GDPの2割を占める観光業に目を向けると、2022年10月に入国規制を完全に撤廃して以降、着実に外国人観光客が戻ってきており、2023年の予想では約4,000万人と、コロナ禍前水準にほぼ近くなっています。他方、輸出では、主要輸出先国である米国と中国の需要に強く影響され、例えば米国経済が鈍化した2022年後半には低迷、中国向けは中国がリオープンしてからは急速に回復しました。先述のようにタイの産業はモノの輸出が非常に重要なため、全体的に持ち直しているものの、今後も世界経済の先行きに注意する必要があります。こうした状況・要因を踏まえ、タイ中央銀行はタイのインフレの状況はどうでしょうか。タイのインフレ率(消費者物価上昇率)は、2022年にオミクロン株の流行、ロシアのウクライナ侵攻による燃料価格の高騰等を要因として、約8%に到達することがありました。他のASEAN諸国も同じ傾向がみられましたが、他国よりも早く収束し、本年7月には0.38%をつけるなど、現在は低水準となっています。これは、インフレがエネルギー価格や食品価格の高騰というコスト・プッシュ要因で生じており、これらの収束に従っているためです。昨年インフレ率が上昇してきたタイミングで、タイ中央銀行はコロナ禍で過去最低の0.5%まで下げていた政策金利の引上げを開始しています。直近(本年8月)まで7会合連続で引き上げてきていますが(2.25%。過去9年間で最高)、インフレ率については、まだエネルギー価格・食料品価格の低下を一時的要因と見積もっており、今年後半の上昇を警戒しています。タイへの直接投資については、累積投資額で日本がトップを維持していますが、単年ベースでみると、BOIの承認額が近年中国に追いつかれてきています。先述のEV関連の中国からの投資のスピード・勢いが感じられます。さらに、最近のタイ経済においては、家計債務の問題がよく話題に挙がります。すなわち、住宅ローンや自動車ローン、家計消費といった個人向けローンの債務負担が年々増え続け、家計債務残高は約16兆バーツ、対GDP比で90.6%という高まりを見せています。これは、コロナ禍の収入低下のほか、デジタル・ローン普及で消費者の資金アクセスが容易になっていることが原因といわれています。また、先述の金利上昇の影響により、債務者が返済に苦しみ続ける悪循環も生まれています。家計債務の高まりも理由に、金融機関の与信審査が厳しくなってきており、その結果、今年上半期の新車販売市場が前年同期比で5%減少するなど、人々の暮らしへの影響が出始めています。タイ中央銀行はこの点を非常に問題視しており、商業銀行に対して債務の再構成を

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