ファイナンス 2023年9月号 No.694
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<図1>〈図1 Thailand 4.0〉Bangkok Postより*6) Gross Regional and Provincial Product (GPP)(NESDC)(2021年)*7) 外務省「海外進出日系企業拠点数調査」(2022年調査結果)、JETRO「タイ日系企業進出動向調査2020年調査結果」*8) 日本人駐在員数も相当高く、在留邦人数は約7.8万人(中国、米国、豪州、に次ぐ4番目)(外務省(2022年10月))*9) 国際自動車工業連合会(OICA)*10) 1997年のアジア通貨危機時の国内需要の縮小(生産能力余剰)、バーツ下落による輸出競争力の高まりにより、以降タイの輸出拠点化が進行*11) JETROバンコク作成資料、タイ国トヨタ自動車*12) ちなみに、二輪車(バイク)の登録はホンダ(約8割)とヤマハ(約1割)2社だけで9割超(タイ運輸省陸運局) 42 ファイナンス 2023 Sep.タイはASEAN諸国の中でも早期に経済成長を達成していますが、賃金上昇や少子高齢化の進展による労働力確保に課題が生じており、他の原因とも相まって経済成長が停滞する「中所得国の罠」に陥っています。プラユット政権(2014年8月~2023年8月)では、産業構造の高度化をはかり、先進国入りを果たすべく、2016年に「Thailand 4.0」という国家戦略を立てています。この目標は、自動車やエレクトロニクスなど既存の産業のいくつかを重点産業と位置づけ、高度先端技術・イノベーションを導入して産業高度化や国際競争力強化を行い、持続的成長を目指すというものです。タイは、高度な技術については日本を始めとする外資企業に依存する形で、付加価値の低い機能や工程を担ってきた側面があるため、人材育成や労働生産性向上を通じた産業高度化、高付加価値化を、タイの地場企業も担っていくことが重要になります。なお、中所得国ではありますが、首都バンコクの一人当たりGDPは先進国並みの約16,744ドル*6となっています。バンコクは東京より密集しているのではないかと思うくらい、高層ビルが建ち並び、物価も高い印象です。ただ、これはバンコクのみで、第2の都市チェンマイだと、一人当たりGDPは約3,757ドルとなります。タイはバンコク一極集中の状況であり、バンコクから郊外へ少し車を走らせれば、のどかな田園風景や牛が飼育されている様子が広がっています。 3 3 日本企業の存在感と立ち位置日頃、日本企業の方々から現地や世界での活動状況についてお話を伺うことが多いのですが、タイ経済を語るにあたり、日本企業の存在感についてぜひともご紹介したいと思います。まず、タイに進出する日系企業数は5,856社あり、この数は、海外では中国・米国に次いで3番目に多いです*7*8。内訳は、製造業40%、サービス業等の非製造業が55.6%ですが、タイでは従来、自動車や電気機械に代表される製造業が製造拠点・サプライチェーンを構築し、輸出や雇用面でタイの経済成長をリードしてきました。近年は、製造業は横ばい、非製造業の進出増加が目立ちます。次に、日系製造業の代表的産業である自動車産業と、最近の同産業界の動きについてご紹介します。タイで道を走っている車に注目すると、日本車の割合が相当高いことにすぐに気付きます。タイは、自動車生産量が世界第10位*9と東南アジア最大の生産国で、その約半数を輸出しています*10。バンコクや近辺の工業団地には、日系各社の生産工場が所在しています。2022年タイでの生産(約188万台)における日系シェアは実に85%超え、2023年上半期の販売(約41万台)のうち、日系シェアは約79%に上ります*11*12。これら日系シェアの数字を見ると、やはりタイ自動車生産・販売市場における日本企業の存在感は大きく、日本にとっても重要な製造拠点かつマーケットであることが分かります。しかし、最近は電気自動車(EV)等の次世代自動車が、タイ政府のEV振興策の後押し(消費者向けには補助金・物品税軽減、メーカー向けには輸入関税軽減等)もあり普及が急速に進んでおり、日本がこれまで引っ張ってきた自動車製造・国内外での販売市場での変化の兆しがみえてきています。タイにおけるバッテリー式EV(BEV)四輪車の登録台数は、2022年に約1万台(前年比約5倍)、2023年は上半期が過ぎた段階ですが、さらにその3倍である約

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