ファイナンス 2023年9月号 No.694
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〈グラフ1 タイの少子高齢化の状況〉グラフ1*2) 農業大国であることを示す指標として、最近の食糧自給率の数字がないのですが、穀物自給率はアジアではカザフスタンに次いで高い121%。ちなみに日本は28%(FAO、農林水産省)。*3) 世界銀行(2021年)*4) タイ労働省雇用局*5) IMF World Economic Outlook(2023年4月)人口・生産年齢人口等の推移総人口生産年齢人口高齢化率(右軸)(備考)国連のデータより作成(%)(千人)(備考)国連のデータより作成ファイナンス 2023 Sep. 41土の約47%(約24万km2)が農地面積であり、これは日本(4.3万km2)の約5.5倍となっています*2。タイの人口は、2021年に高齢者割合が14%を超えて「高齢社会」に移行、数年後には「超高齢社会」に突入します。また、少子化も進行しており、合計特殊出生率は1.33と日本と同水準です*3。生産年齢人口(15~64歳)は既に2018年に減少局面に入っており、慢性的な労働力不足が現在と今後の課題となっています。経済が回復し、海外旅行客が回帰するなど需要も回復していく中で、タイ政府としては、短期的には外国人労働者の確保、そして中長期的には人材の質の向上、すなわち労働力人口の伸びの減速を補完するだけの労働生産性向上が不可欠となっています。加えて、タイの産業別の就業者をみると、農業従事者が占める割合が約3割となっており、就労構造の転換も促していかなければなりません。地方や農村に労働者が一定割合存在することについて、世銀のカントリーエコノミストの方に話を聞くと、若者は地方から都市へ出てきて企業でいったん働くものの、やがて親の介護のために帰郷してしまうという実態があるとのことでした。タイには介護保険制度のような十分な公的制度がないため、高齢者介護システム=コミュニティで支えるというのが現実です。タイで近年増加する外国人労働者については、2022年には約300万人が主に製造業、建設業、農業に従事しています*4。そのうち9割を近隣のミャンマー人・カンボジア人・ラオス人が占めており、また数字には表れていない不法労働者もいるといわれています。たしかに、バンコクでの日常生活において、高層ビルやコンドミニアムの建設現場が至るところにありますが、バスや車の荷台に多数乗り合い、現場に集合している出稼ぎ労働者をよく目にします。タイの名目GDPは、5,362億ドル*5(インドネシア(13,188億ドル)に次ぐASEAN2位)、一人当たりGDPは7,651ドルとなっており、上位中所得国に位置付けられます。産業別では、GDPのうち約3割が製造業でトップシェアとなっています。これは、1980年代から日本企業をはじめとする外資企業が次々に進出し、自動車やエレクトロニクスの輸出拠点として、サプライチェーンを構築していることからも明らかであり、モノを作って輸出するというのがタイの産業の特徴です。

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