ファイナンス 2023年9月号 No.694
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FINANCE LIBRARYファイナンスライブラリー岩波書店 2022年8月 定価 本体17,000円+税本邦初公開の日本の雇用の将来についての言及が835頁の注52で紹介されていることにふれる。そこに曰く、「第1に、若年層から高度プロフェッショナルを採用して戦力化したいのであれば、新卒入社時からメンバーシップ型とジョブ型の入り口が分かれる“縦割りの一社二制度”、第2に、メンバーシップ型とジョブ型の境界線を、年齢で引く場合である。新卒は一括採用の『メンバーシップ型』で入社し、社内のOJTで人材教育が行われ、一定の年齢に達したら『ジョブ型』に移行する。職務の選択は多様であり、ハイエンドのジョブにアプライしてグローバルに活躍する者もいれば、ローカルなジョブに就いて、細く長い会社生活を送る者もあるだろう。いわゆる『40歳定年説』などは、この発想に類する。ただし、二つとも競争力や生産性の向上に役立つかどうかはわからない」というものだ。この例示のような示唆深い言及が、「B5版で900ページ近い分厚さ」の本文の各ページの注にまでも余すところなく記されているという重厚な内容である。本書の構成は以下のとおり。序 章 認識と制度はいかに形成されるか第Ⅰ部 平成金融危機の真相第1章 プルーデンス政策における制度的無防備 問題の所在Ⅰ第1節 長期不況の原因、第2節 金融危機長期化の論点、第3節 銀行の公共的機能と金融危機の概念、第4節 事前的プルーデンス政策、第5節 事後的プルーデンス政策、第6節 規制・監督当局と銀行界の“一体型行政組織”、第7節 時代制約論に対する本書の立場第2章 制度構築の空白期間 寺村銀行局長の時代第1節 日銀の破綻処理「四原則」、第2節 大蔵省銀行局、第3節 寺村の漸進主義、第4節 フォーベイランス・ポリシー批判 ファイナンス 2023 Sep. 31辻廣 雅文 著金融危機と倒産法制評者渡部 晶本書カバーの裏扉には「バブル崩壊から20年以上に亘る日本の金融危機が、先進国間で突出して長期化した理由は何か。金融危機克服の過程はどのようなものだったか。そして明治期以来100年ぶりに行われた倒産法制の全面刷新はその要請に応えられたのか。金融機関、官僚、法律家、研究者等を直接取材して得られた生の情報を比較制度分析の手法によって体系化し、この時代の経済システムの転換の困難さを経路依存性の視点から捉えて、その全貌を明らかにした」とある。本書の著者の辻廣雅文氏は、週刊ダイヤモンドを舞台に長らく活躍、同誌編集長等を務めたのち、2015年から帝京大学経済学部教授である。評者は公務出張中で参加できなかったが、本年4月5日の財総研のランチミーティングでは「倒産法制の歴史と課題~『金融危機と倒産法制』から~」(財総研HPに資料up有)と題して本書の概要のプレゼンがなされた。辻廣氏は、「完成までに8年を費やした結果、896ページの大部になってしまった」と振り返る。社会時評としても著名な「hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)」(濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構労働政策研究所長執筆)は、昨年8月18日付記事【辻廣雅文『金融危機と倒産法制』】(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/08/post-594a63.html)で本書を取り上げている。濱口氏の紹介にあるが、「金融論と倒産法という経済学と法学のそれぞれ難所をジャーナリズムの感性でもって切り結ぶという凄い本」である。同記事では、「終章 1975年体制の克服」で、辻廣氏の「メンバーシップ型を木の幹として維持し、ジョブ型を加えて果実を得るには、どのような接合イメージがありえるのか」という問いに対しての、濱口氏の

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