ファイナンス 2023年9月号 No.694
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(出所)財務省「国債発行を取り巻く現状と課題」(P.12)を抜粋。https://sites.google.com/site/hattori0819/*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 図表1 流動性供給入札のイメージ !"#*+!",-./01234567893!":;<=>?@AB CBDEFG>HIJKLMHINONKPQMAREFGS&TUV&BD WX7&[\!"]^&_`ab c&>]^&d c&Aefghijk>oApqrMstu7vwsMxyznHIJKLM{PO?|}HILKNO{PO?|}ij7!"€&‚YƒEFGR&k,3„…7Ÿ& ¡F¢£—•–&•–&?MHI?MHIŠM•†‡ˆ—vwsMsK˜t™{RtOš|}›¤œFYƒ <=HI“M‹JMŒ?MŽUV>HILKNONMEFGAHIM‹”MŒ—vwsMsK˜t™{Rt?ON|}›?MŽ‰‰‰‰§¨]^&‘MŒef©?M’ 22 ファイナンス 2023 Sep.東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋オックスフォード大学 法学部・経営大学院 齋藤 浩暉1.はじめに本稿は流動性供給入札を説明することを目的にしています。流動性供給入札とは、投資家にある特定の国債が多く保有されることで流動性が枯渇した場合等において、市場のニーズに応じて当該銘柄を追加発行し、流動性を回復させる仕組みです。財務省は2006年に流動性供給入札を導入して以降、発行額を増加させており、現在では国債市場において欠かせない仕組みになっています。流動性供給入札への参加資格は、国債の入札において応札義務等を負っている国債市場特別参加者(いわゆるプライマリー・ディーラー(Primary Dealer, PD))に権利として与えられており、彼らの応札により未達が防がれる仕組みを通じて、流動性の向上だけでなく、国債の安定的な消化にも寄与しています。*1流動性供給入札は、量的・質的金融緩和が導入されて以降、流動性の低下が市場参加者から指摘される中、重要性が増している施策と言えます。特に、足下では国債の大部分を日銀が保有する状況が生まれており、既発債を追加的に発行する流動性供給入札の重要性が特に高まっているとみることもできましょう。本稿では流動性供給入札の仕組みをできるだけ具体的に説明しています。なお、国債の入札制度の基本知識を前提とするため、入札の基本の確認が必要な読者は、筆者(服部)が記載した「日本国債入門―ダッチ方式とコンベンショナル方式を中心とした入札(オークション)制度と学術研究の紹介―」(石田・服部, 2020)を参照してください。筆者(服部)が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。流動性供給入札は市場流動性を改善させるための施策です。これが特に有効となるのは、ある投資家が特定の銘柄の国債を多く保有しており、市場での流通量が減少しているような状況です。流動性供給入札は、こういった時に投資家が求める国債を追加供給し流通量を回復させることで流動性を高める仕組みといえます。図表1が流動性供給入札のイメージを示しています。通常の入札では10年国債などの新発債が定期的に発行されているのに対して、流動性供給入札ではかつて発行された国債を市場参加者のニーズに応じて追加発行するという仕組みになっています(後ほど具体的に説明します)。そもそも、ここで目的となっている「流動性」自体が把握しにくい概念ではありますが、債券市場の実務家は、投資家が債券などを市場で購入する際の執行コ2.流動性供給入札の概要2.1 流動性供給入札と市場流動性流動性供給入札入門*1

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