ファイナンス 2023年9月号 No.694
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信用補完制度の解説 *7) 一方、そのような構造は、制度全体を動かすという点ではコントロールや調整の難しい制度になっているとしても、例えば、地方公共団体の制度融資*8) 「ミャンマー金融道 ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日」(泉賢一)のように、日本国外では、信用補完制度を一から構築するような等に組み込まれることで、地域最適化の実施という点では柔軟性のある制度になっていると言えるのかもしれない。ケースも存在する(この際は、筆者によれば、日本の信用補完制度を参考に、現地の状況を踏まえて制度設計を行ったとのことであった。)。どういった構造(全国一律的な政策実施に重点を置くのか、地域最適化の実施に重点を置くのか等)の信用補完制度を構成することが最適解であるかは、当然にその国・地域の状況等によりケースバイケースであるけれども、仮に日本の信用補完制度を参考とした制度改善や政策検討が行われる場合にあっては、現行法制や制度の理解もさることながら、そもそも、この日本の信用補完制度がどういった特質を有するか、全体像がどのようになっているのか、という観点を何らか持っていただくことも必要ではないだろうか。そういった点で、本稿が、日本国内に留まらず、諸外国における制度改善や政策検討といった議論にも何らか資する資料となることが今後あるならば、非常にありがたいことと思う。 18 ファイナンス 2023 Sep.また、今般の新型コロナ対策を含め、今後も、信用補完制度については様々な議論・検討が進められていくことになると思われるが、その際には、関係者や専門家に限らず、この制度を少しでも、多くの方に正確に理解していただくことが必要であろうと思うし、それにあたっては、こういった経緯を含めた一体的な解説物があった方が良いのではないかと、実際に書いてみて改めて思うところである。法的な部分など、極めてテクニカルな内容も多いため、分かりづらい部分も多々あったかと思われるが、何卒ご容赦いただきたい。最後に、あくまで私見ながら一つ述べておきたい。日本の政策金融は、この信用補完制度を含め、常に「民業補完」をその基本理念として行われてきた。ただし、その求められる補完の形は、少なくとも戦後においては、高度経済成長期を中心に「量」に係るものから始まった。そういった環境の中で、現行の信用補完制度は、経済規模が急速に拡大する中にあって、中小企業者等へのある種の保護として、十分な資金を供給ならしめるという観点では、最適化された政策金融システムの一つであったのであろう。一方、日本経済の発展と成熟の中で、政策金融改革を経て、求められる補完の形は「質」に係るものへと変化してきたと考えられるところ、信用補完制度は難しい制度的舵取りを求められてきたと思われる。すなわち、平時には、創業などの政策課題への対応ツールとしての役割を求められつつ、今般の新型コロナ対策においては特に顕著であったように、量的補完という旧来のような役割にも応えなければならない。こういった点は、他の政策金融にも共通するものではあろう。しかしながら、信用補完制度は、先述の歴史的経緯をその根底に有するが故に、民間・地方・国という、明白に見えるだけでも常に3つのアクターを制度的に内包し、かつ、そういった制度において、質的補完と量的補完という時に相反する政策目的を如何にして達成しうるかを常に考えなければならない、という、他の政策金融と比べて複雑なバランス構造の上にあることは否めない*7。したがって、その制度改善等の議論にあたっては、現状の制度バランスがどのようになっているか、というその現況把握にどのように努めるかが、非常に重要ではないかと思われる。信用補完制度は、非常に多様なアクターが関与するものの、なかなか日常では、そういった点を感じ難いのではないだろうか。本稿を通じ、僅かでも信用補完制度そのものに興味を持っていただける方が居られたとすれば、それに越したことは無い。また、我が国の信用補完制度に係ることに関わらず、本稿が、中小企業者等への資金繰り支援にあたり、何らかの制度改善や政策検討に資するものとなることがあれば、この上なく幸いである*8。(以上)

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