ファイナンス 2023年9月号 No.694
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信用補完制度の解説*6) 「歴史とは何か(新版)」(E.H.カー 近藤和彦訳) P.86 特に、日本の戦後金融については、GHQによる戦後統治期の議論・動向まで■ることが、結果的に、本来の制度趣旨等を理解するにあたり必要であることが多いように思われる。 ファイナンス 2023 Sep. 17しいと思われるところである。その上で、ここまで述べたような論点があるとして、まず現状において、可能な限り事故率を引き下げ、低廉な保険料、より効果的かつ効率的な資金繰り支援を実現するために、今、まず取れる策は何かと問われたならば、どうお答えするべきだろうか。この点については、様々なご意見があることは承知の上で、あくまで私見として述べるならば、少なくとも、公庫保険・信用保証協会・民間金融機関が、その融資先(保証先)への支援にあたり、緊密に情報共有等の相互協力が行われる関係性を維持・強化していくという路線を、これまで以上に進めるしかない、とお答えするしかないのではないかと思われる。一見見落とされがちであるが、公庫保険・信用保証協会・民間金融機関は、信用補完制度上では、何らか一方が、当然に優位するような関係性にならない(それは、この信用補完制度の複雑な成立経緯も含め、これまでの積み上げによるものである。)。それ故に、関係する諸アクター間の相互協力という形を深めることが、まず現状において取りうる解の一つであろうと考える次第である。そして、そういった相互協力は、これまでも行われてきたところであるが、新型コロナ対策により保険引受額が従来になく積み上がった現在においてこそ、その重要性はさらに高まるのではないだろうか。勿論、上記の3アクターに限らず、信用補完制度に関係するアクターによる有機的な連携が広く行われていけば更に望ましいことは言うまでもないだろう。(まとめ)信用補完制度は、その発足以降、中小企業政策に係る重要な金融インフラとして、いかなる場合であっても安定的かつ確実な稼働が求められてきた。また、地方公共団体の中小企業政策にも関連するため、非常に多面的な制度環境の理解無くして、その適切な改善を図ることも難しい存在となっている。一方、信用補完制度は法令上の立て付けに加え、予算面について、事業規模と予算額という2つの概念を組み合わせて理解しなければ、その全体構造を理解することも容易ではなくなってしまっている。信用補完制度には、これまで述べたように多額の予算が措置されているため、そのあり方については非常に多くの意見が存在すると思われる。それにあたっては、法令面もさることながら、予算面からもその構造を広くご理解いただくことが、適切な議論・検討に必要と思われる。ここで述べている内容は、信用補完制度の予算構造としては、一般的な内容を、可能な限り平易な言葉に置き換えているに過ぎない。しかしながら、ここで述べた内容を台に信用補完制度について少しでも理解を深めていただき、今後の何らかの議論・検討に活用いただける方がおられるならば、筆者としては幸いである。敢えて言えば、歴史的経緯に相当程度ページを割いているという点が、この手の解説においては少々珍しいかもしれない。この点については、現行制度を理解すれば足りるのであるから、そのような戦前・戦後まで遡らなくてよいのではというご指摘もあろう。ご指摘は、現行の信用補完制度を知るという点においては、おっしゃる通りと思う。一方、「過去は現在の光に照らされて初めて知覚できるようになり、現在は過去の光に照らされて初めて十分理解できるようになる*6」という言もある。どうしても現在の光に、実務者、とりわけ、目の前の課題を解決したい現役の者ほど目を向けてしまいがちであるけれども、過去の光にも目を向けることが、結果的により良い制度理解に資するだろうと考えたものである。どうかご理解頂ければ幸いである。3.おわりに(最後に)ここまで、4回にかけて、概ね、歴史的、法的、予算(財政)的な観点から、日本の信用補完制度について述べてきた。その内容自体は、一つ一つをみれば、信用補完制度に少しでも携わった方から見れば、さほど目新しい内容ではないだろうけれども、一体的に解説するという点に重心を置く試みとして書かせていただいたところである。

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