ファイナンス 2023年9月号 No.694
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*5) 正式名称は「包括保証保険契約」である。その内容は、株式会社日本政策金融公庫のHPにおいて、下記のように解説されている。なお、この契約方*4) 平成29年5月11日の衆議院本会議において、次のように答弁されている。 ○鈴木義弘君 ただいま提案されました中小企業の経営の改善発達を促進するための中小企業信用保険法等の一部を改正する法律案について、民進党を代表して質問いたします。… さらに、本題の信用保証協会利用の理由についての設問では、信用保証協会を利用している企業の七割が、金融機関に勧められたからと回答していて、信用保証協会から保証を得られなかったことで金融機関から融資を断られた企業が百十八社存在し、その約五割が赤字などの理由で資金不足になったときの借り入れと回答した結果であります。 この結果だけを見ると、信用保証協会や金融機関は何のための存在意義なのかわかりません。事業性評価を最大限活用するための目きき力の重要性がうたわれていながら、現状ではそれが実行されていません。さらなる方策をお尋ねいたします。 過去にも信用保証制度の問題点が指摘されており、今回の法改正に至らなかったものを取り上げて質問いたします。 第一に、金融機関と借り手企業のモラルハザード。第二に、我が国では、信用保証制度の政策効果と副作用について検証が十分に行われているとは言いがたいこと。第三に、信用保証制度のコスト面の課題。 つまり、信用保証制度に関連して、過去十四年間で八兆円を超える支出規模が適正かどうか。また、信用保険に対する財政措置の多くが、補正予算で手当てされて、国民の目に届きにくく、その是非について広い議論が行われることを妨げている。補正予算で手当てされた信用保険向け政府出資金は、過去十四年間を単純に平均すると年四千五百億円を超えている。政府支出以外に、保証協会向けに地方自治体が負担しているコストが別途存在し、社会全体として、信用保証制度に関係してどれぐらいの財政コストがかかっているのか、非常に見えにくいというものです。 第四に、長年赤字が続いている信用保険制度の収支改善を図るには、保証協会が政策公庫に支払う保険料の変更も検討の余地があり、金融機関の審査インセンティブと借り手企業の経営努力インセンティブを同時に高めるような制度設計が望まれるが、その方策はお考えか。…○国務大臣(世耕弘成君) … 保険料の制度設計についてお尋ねがありました。 保証協会が再保険のために日本政策金融公庫に支払う保険料の料率は、個々の中小企業の信用リスクを、CRD、クレジット・リスク・データベースと言われるビッグデータを用いて定量的に判定し、九区分できめ細かく適用される仕組みとしております。この保険料率と、中小企業が保証協会に支払う保証料の料率は、基本的に連動する設計となっております。 この仕組みは、リスクに応じた適切な保険料率となることで保険収支が安定するとともに、御指摘のとおり、経営改善を進めて信用リスクを低下させれば、保証料率も段階的に引き下がるというインセンティブにもなり、結果として代位弁済が抑制され、保険収支の改善につながるものです。 その上で、保険料率、保証料率の水準や体系のさらなる見直しについては、まず、今般の見直しの中核となる保証協会と金融機関のリスク分担を初めとする各種制度改正を進め、その効果を十分に検証した上で、御指摘のように、中小企業の経営改善のインセンティブに一層つなげること、制度の持続可能性を確保することといった点を総合的に勘案しつつ、検討してまいります。…式(制度)の導入当初等の詳細は、本稿の第2回における脚注16を参照されたい。「信用保証協会が中小企業者の金融機関からの借入等による債務を保証した場合に、借入金の額のうち保証した額の総額が一定の金額に達するまで、その保証について、信用保証協会と公庫との間に自動的に保険関係が成立する契約のこと…」https://www.jfc.go.jp/n/company/sme/insurance_glossary.html 16 ファイナンス 2023 Sep.なお、こういった政策的な観点から自由な保険料率を設定しない中では、その財政措置の内容等を踏まえ、その事業規模を設定せざるを得ないであろうから、現行の法令上の立て付けは、その観点からも論理的に妥当なものと思われる。ちなみに、仮に法改正をして、保険料率を公庫保険が自主的に決められる、としたならばどうであろうか。この場合、確かに公庫保険はその経営上必要な料率改定を可能とするであろう。しかしながら、その場合、信用保険法第1条にある「中小企業者に対する事業資金の融通を円滑にするため、中小企業者の債務の保証につき保険を行なう制度を確立し、もつて中小企業の振興を図ることを目的とする」とする法目的を達する上で、適当な保険料率に必ず収まることは、制度上保証されないであろう。すなわち、一般論として保険料率と保証料率は連動しているため*4、収支相等という保険数理上の目的だけを単純に達成するとして際限なく保険料率を上げるとすれば、当然に中小企業者等が負担する保証料率も上昇せざるを得ないが、それは信用保険法の趣旨に沿うものとなりうるか、という論点が生じうる。少なくとも現行の信用保険法の全体像を勘案することなく、単に保険料率を自由に定められるとすれば、この論点が解決されるものではないだろうと思われる。では、保険料率の上限を簡単に変えられないとするならば、仮に引き受けるべき保険を、公庫保険が吟味すればよいのではないか(事故率が高い信用保証協会からの保険を引き受けなければよいのではないか)というようなご意見もあるかもしれない。しかしながら、このようにした場合、公庫保険が行う内容は、信用保証協会への再保険機能では無く、実質的に「再保証」機能となってしまうと考えられる。再保証的な取扱いで対応するとするならば、これまでのような、いわゆる包括保険契約*5という取扱いは出来なくなるため、従来に比べ著しく保険審査コストが上昇することが予想されるほか、信用補完制度の中で著しい地域差を生じさせる可能性もあるだろう。なお、信用保証協会は、各地方公共団体の中小企業政策とも密接な関連があるから、再保証的な取扱いに変えるか否かの議論は、各地方公共団体の中小企業政策にも非常に大きな影響を与えることを認識しておく必要がある。このように信用保険と予算措置については、非常に多面的な議論となることが容易に想定されるため、仮に何らかの政策的な検討を行う必要が生じた場合は、そういった点も十分留意の上で議論されることが望ま

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