ファイナンス 2023年9月号 No.694
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事故率が高ければ高いほど、同じ予算額で行える事業規模は縮小する。同様に、事故率が低ければ低また、例えば、特定の政策テーマ(例:創業支援)について事故率が上昇する場合に措置される予算したがって、信用補完制度においては、予算額の増加は、必ずしも事業規模の拡大を意味しないものの、一般論として、事故率の低下は、低廉な保険料率の実現だけでなく、より効果的かつ効率的な資金繰り支援に資するものとなる。 ※ 筆者作成(図表2)公庫保険と予算措置(イメージ)いほど、同じ予算額で行える事業規模は増加する。額は、事業規模の拡大には繋がらない。事故率5%の場合200=10/0.05信用補完制度の解説事故率10%の場合100=10/0.1事業規模200事業規模100事故率10%+増加分(10%)の場合100=(10+10)/(0.1+0.1)特定の政策テーマに係る予算措置として位置づけることは可能となる(この場合、総額20のうち、10は上記テーマに係る予算措置)。予算額10予算額10事故率の増加分の予算措置は、事業規模を構成しない(下線部)。事業規模100*3) 昭和33年3月13日の衆議院商工委員会においても、下記の質疑がなされている。中小企業信用保険公庫として収支相償の経営を目指しつつも、中小企業政策の観点から、中小企業者等に対し可能な限り低廉な保険料を可能とするという論点は、その制度成立時からのものであることが、この質疑からも示されているのではないだろうか。○内田委員(内田常雄議員) …この保険料率というものは、安ければ安いだけいいのでありますから、これは実績を見た上で、さらに冒頭にも論議をいたしましたように、保険準備基金を将来充実させることとも関連いたしまして、今後一そう引き下げていただかなければならないと思います。 ところで、私は法律構成上、非常に重大な問題をお尋ねをいたしますが、今度政府は、同じくこの国会に輸出保険法の改正法案をお出しになっております。ところが、この輸出保険法によりますと、保険料率決定の原則というものが、何条かにあります。それによりますと、輸出保険の保険料率というものは、保険金をカバーするような計算においてこれをきめなければならないということが、法律にちゃんとうたわれております。いわば、自立採算制で、輸出保険の保険料はきめなければならないということがうたってあります。同じ政府の保険制度でありながら、この中小企業信用保険法におきましては、保険料率決定の原則が、輸出保険とは違うのでありまして、決して自立採算制でなければならないということになっておりません。政令の定むるところによってこれをきめるということであります。従って、同じ通産省が所管せられておる保険制度において一方に自立採算制によらなければならないという明瞭な規定がありこの中小企業信用保険の方にその規定がないということは、中小企業信用保険においては、必ずしも保険料支払い、あるいはその他の経費がカバーできるような高い保険料をとらなくてもいいのだ。中小企業対策として、相当保険基金に食い込んでも、できるだけ安い保険料をきめなさい、こういう趣旨だと思いますが、これはいかにお考えでございましょうか。○川上政府委員(中小企業庁長官) 輸出保険の関係と、その点において違うじゃないかというようなお話でありますけれども、私は、輸出保険の法律はよく読んでおりませんけれども、この中小企業信用保険公庫の方につきましても、やはりこういう公庫を作るからには、独立採算という考え方でいくべきだというふうに、私どもは考えておりまして、その点は全く輸出保険の方と同じじゃないかというふうに考えておるわけであります。そこで、この公庫にいたしましても、保険料を非常に引き下げろとか、あるいは包括保険に重点を置いたとか、そういうような関係からいたしますと、やはり保険関係においては、相当のマイナスが出てくるわけでございます。それをカバーするのは、結局六十五億と、それから現在の保険の特別会計で残っておりますものを計上する分、それを合せました額を資金運用部に預けまして、その運用益でカバーするというような格好に、実はいたしておるわけでございまして、公庫を作りまして、独立採算とはいいながら、相当保証協会に対する持ち出しといいますか、そういうことになってくるわけでございます。○内田委員 中小企業庁長官、研究不足のようで、私は輸出保険法のことはよく知らぬということは、政府委員として答弁にならぬのであります。いずれも通産省が所管する信用保険制度でありますから、そこはさらに研究されて、そもそもこの中小企業信用保険というものは、輸出信用保険とは違うのだ、中小企業対策としての考え方から出発するのだということを、事の初めに考えておかれないと、どなたが今度の信用保険公庫の理事長になられるのか知りませんが、もうけ主義でやられたのでは、これは中小企業者を踏み台にするだけで、たまったものじゃありません。これは、一つ、きょうからさらに御研究を願わなければならないと思います。ことに、今度の信用保険公庫の基金にされる六十五億円というものは経済基盤強化資金法案によって、六十五億円がこの公庫に出されるのでありますが、何と書いてあるかといいますと、経済基盤強化資金法の第十一条の第二号でありますけれども、中小企業信用保険公庫に出資する六十五億円の基金は、同公庫の保険事業の損益計算上損失を生じた場合において、その損失をうめるための保険準備金とする、こう書いてあるわけであります。従って、たな上げ資金とはいいながら、この六十五億円は、ちゃんと損をする建前で、損をした場合には、だんだんこれを食っていくのだ、こういうことになるわけであります。従って、輸出保険制度と同じように、独立採算でいくのだという建前でもないようでありますから、私は、この点をも十分研究をしていただきたいと思います。… なお、敢えて中小企業信用保険公庫以前の議論まで立ち返ってみると、保険料率の上限(3%)というのは、中小企業信用保険特別会計にまで■ることができる。そして、その当時の考え方については、「中小企業信用保険公庫五年史」において次のように記されている。とはいえ、これは中小企業信用保険公庫の前身たる中小企業信用保険特別会計の議論でもあるし、そもそも、当時の議論状況と現在の信用補完制度の状況は当然に異なる。したがって、今となっては、そのバックグラウンドを知るという意味で取り扱うことが妥当な解説であろう。「この新制度について中小企業庁は、…特長点を次のとおり挙げている。…(六)本制度の運営は、自立採算を維持するよう要求されている。保険料率が高率であることも、収支相償うべき保険計算の要請に基づくものである。この種の保険は、わが国では未発達であるために、厳密なリスク・レートの算出ができず、かつその変動率も高いと考えられるので、相当の安全率を加算した結果、年三%となつた。…」*3ファイナンス 2023 Sep. 15

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