ファイナンス 2023年9月号 No.694
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※ 筆者作成(図表1)公庫保険への財務省予算措置(令和元年度から令和5年度(当初予算))470460450460440430420410令和元年度※単位未満四捨五入会計年度5年度間平均(億円)480433令和2年度令和3年度464471令和4年度459467令和5年度公庫保険への予算措置(出資金)財務省当初予算計上5億円0億円3億円4億円1億円7億円999999 14 ファイナンス 2023 Sep.10であったとしても、実際に便益を与えることができるのは100である、ということになる。(信用保険と予算措置)そして、この100こそが実務上は、事業規模と呼ばれているものになる。一般的に予算額へ目が向きがちであるけれども、事業規模は、信用保証協会が行える保証額とも紐付いているため、信用補完制度が現実的に稼働できる限界範囲ということになる。そして、最終的にはこのような予算措置と事業規模の内容等を踏まえて、その年度中に、公庫保険が保険契約を締結できる保険価格の総額(限度額)が、予算総則(令和5年度の場合、政府関係機関予算の予算総則第3条)に記載されることとなる。一般的な傾向として、予算額が多ければ事業規模も増加するため、予算額が大きければ多くの信用保険を提供できるということは言えるであろう。一方、仮に事故率が上昇している状況下(例えば、災害対応)にあっては、一般論としては、同じ予算額でも対応できる事業規模は縮小してしまう。このように、信用補完制度の予算措置を正確に理解するにあたっては、予算額と事業規模の双方の概念を連結して理解しなければならない。どちらだけを見ていても、信用補完制度の適切な理解は困難なのである。さて、ここまでの内容を見て、もしかすれば、初見の方は以下のように思うかもしれない。すなわち、信用「保険」なのであるから、保険である以上、保険数理に基づき、収支相等の原則が働いているのではないのか、より平易に言えば、その引き受ける保険ごとの危険度に応じて、保険料率が引き上げられる等することが保険事業として一般的であるから、適切に保険料率を引き上げればよく、このような予算措置が必ずしも必要なのか、というものである。この点については、どうしてもその名称からご指摘のようなご意見は十分承知するものの、実際的な政策面を考えると仕方の無い部分があると言わざるを得ないように思われる。その理由は、最も端的に言えば、中小企業信用保険法(昭和25年法律第264号。以下「信用保険法」という。)において、保険料率に上限が法定されているからである。別の言い方をするならば、保険の論理(収支相等の原則)から、現行の上限(3%)を超える保険料率の設定が必要だという場合が生じたとしても、法制上の措置なく当然に引き上げるというようなことを想定した制度とはなっていないのである。保険プールがある程度構築されれば、大数の法則からどの程度の事故が発生するかは算定可能にはなるため、保険料率の上限があることのみを以て、ただちに制度運営の機動性が落ちるとまでは言い切れないだろう。とはいえ、何故に、法律上で上限を定めているかという点については、今となっては確たる背景を探ることは難しい。当時の国会審議等に鑑みれば、法制過程を含めた、総合的な政策的判断によるものであると捉えるべきものなのであろう*3。

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