ファイナンス 2023年8月号 No.693
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今後の財政政策を考える上での短期的な課題と中長期的な課題の双方を扱うのが良いだろうと考えました。世界的にみて、短期的な課題としては、コロナ禍、ウクライナ戦争、そしてIMFが「cost of living crisis」と呼んでいる、ウクライナ戦争だけによらず全般的にインフレになっている状況があります。それらに対して経済政策としてどのように向き合うかは喫緊の課題です。この点について、財政政策としては大きく分けて二つの切り口があり、一つはコロナ禍で大きく膨らんだ歳出をどのように縮減していくのか、もう一つはインフレが全世界的な潮流になっている中でマクロ経済政策全体としてどう対応するか、というテーマがあります。“The Relevance of the Fiscal-Monetary Policy Mix for Disinflation”というタイトルは特にこの二つ目の点を念頭に置いたものです。中長期的な財政運営を考える際、IMFではmacro-criticalという観点から、マクロ経済に大きなインパクトがある項目を重点的に議論する必要があると考えています。その観点では、やはり気候変動が挙げられます。他にもGender Disparity(男女間格差)やEconomic Inclusion(経済的包摂)といったテーマも研究・分析をしていますが、特にアジア地域においてもっともmacro-criticalなのは気候変動なので、それをぜひ取り上げようということになりました。―アジェンダを組み立てられる際に工夫された点や苦労された点はありますか?TFFは、IMFが自らの研究・分析結果やアクティビティをアジア地域の当局者に伝える重要なチャネルですが、同時に、IMFからの一方的な押し付けではなく、アジアの当局者自身がTFFを通じて色々な議論をすることで、様々な形で知恵を持って帰ってもらうことも重要な意義だと考えています。そうした観点で、アジェンダを作る際には、“IMFや研究者の意見を聞いて終わり”というよりは、当局者同士で議論してもらってお互い気付きを与え合うことが重要だと考えたので、それぞれのテーマについて、レクチャータイプのセッションと、当局者がそのテーマについて自分たちが何をやっているか、何を目指しているのかを共有し合うためのラウンドテーブルの両方を行う形にしました。苦労した点は、スピーカーをどうバランス良く揃えるかという点ですね。もちろんIMFの幹部にも話してもらいますが、大学の研究者も必要ですし、例えばEUのような他の先進国の取組も紹介する必要があるので、その辺りのバランスを取ることに苦労しました。特に、気候変動は新しい分野なので、財政政策との関係を議論してくれる研究者を探すのは大変でした。中央銀行の独立性は保たれるべきであるという大前提の下で、インフレ対応にあたっては、財政政策と金融政策のcoordination(調整)が必須であるというのが、今回のフォーラムの一つのインプリケーションだと思います。例えば、現在世界中で起きているようなインフレに対応する際、金融政策を引き締めに転じるべきなのはもちろんですが、同時に財政政策もtightening(引き締め)することで、金融政策の効果を最大化すべきであり、そうした整合性を保ったマクロ経済政策運営を行うべきである、ということです。IMFはこうした問題意識から、2023年4月のレポートで、過去30年を振り返ると、財政支出をGDP1%拡大すると0.5%物価が上昇することを示しています。どのように調整を行うか、という点については、例えば日本では、財務大臣と日銀総裁が経済財政諮問会議のメンバーになっており、そこで調整を行うことが考えられますが、諮問会議はマクロ経済政策のスタンスのみならず、数多ある幅広い課題を議論する場でもあります。一方、例えばタイは、Fiscal Policy Committee(財政政策委員会)という財政政策の方向性や現状を議論するフレームワークがあり、総理が議長、財務大臣が副議長で、中銀総裁もそのメンバーになって調整が行われています。色々なinstitution(組織)の在り方があり、国に 62 ファイナンス 2023 Aug.2.各セッションについて―財政・金融政策の調整(coordination)について、どのような方向性が必要で、日本と他の国々とでどのような共通点や相違点があるとお考えですか?

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