ファイナンス 2023年8月号 No.693
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3.私が関わった地域づくりの事例アジアのハブになるためには、成功するための3つの要件があります。1つ目は、正式招待された演目を開催できる施設があることです。これは先ほど申し上げたように、豊岡市には、1市5町が合併したことにより、様々な施設が整っています。成功するための2つ目の要件は、様々な宿泊施設があることです。豊岡市には、神鍋高原があります。ここは冬のスキー場として、またスポーツ合宿のメッカとしても知られています。4,000円から5,000円で雑魚寝できるような民宿から、城崎温泉の1泊5万円から10万円のVIPクラスが泊まる宿まで、様々な階層の宿泊施設が人口8万人の町に揃っているのです。3つ目はネットワークです。これは私個人のネットワークや城崎国際アートセンターのネットワークを活用して、演劇祭を成功させることができると考えています。私が予想していなかったことのひとつは、東南アジアのアーティストたちが、自国の助成金を受けて日本に来るようになったことです。シンガポールはもちろんのこと、タイ、マレーシアなどの国々が、自国の文化予算を活用して日本に来ることができるようになりました。ただし、彼らには「城崎国際アートセンターのレジデントアーティストに選ばれた」という証明が必要なのです。「日本で選ばれたの? すごいね!」という評価を受けるものです。私たちもかつて、「アビニヨン演劇祭に正式に招待されたの? すごいね!」と言われました。その証明を得て、私たちは国際交流基金から助成金を受け取り、ヨーロッパで活動を始めたのです。このように、東南アジアと日本の関係は、かつての日本とヨーロッパの関係と相似形をなすようになったのです。豊岡演劇祭は9月に開催されます。本学の1年生は全員、この演劇祭に参加します。2年生、3年生になると、企画段階から参加することができます。学生の半分が参加するとしても約150名のボランティアを見込めることになります。豊岡演劇祭に参加する学生たちは、地域通貨で支払われる有償のボランティアとして働くので、彼らが得たお金は、地域内で使われることになります。地域通貨はKDDIのリストバンドや携帯電話を通じて提供され、消費や移動のデータが得られます。このデータはビッグデータとして、トヨタモビリティ財団によってモビリティのシステム開発に活用されます。最終的には、自動運転につながると考えられますが、自治体がゼロからこのような実験を行う場合、大変な費用とリスクがかかりますが、演劇祭という期間限定で個人情報も限定しやすい環境では、実験が容易に行えます。そのため、KDDI、トヨタ、JALなどが最初からスポンサーとして参加しているのです。豊岡演劇祭の開催にあたり、空き店舗の活用も重要な課題です。経済的な問題だけでなく、地域の活性化にも関係してきます。「面倒くさいから貸さない。固定資産税も大した負担でもないから」と言っている方でも、地域の活性化には関心があるものです。「演劇祭の期間中だけ貸してください」とお願いすると、「貸してもいいよ」という方が出てきます。そうすることで地域に賑わいが生まれ、「ほら、やはり若い人が使った方がいいよね、折角なら活用した方がいいよね」と、地域の人々の意識を変えていくのもひとつの戦略です。おそらく豊岡でも、空き家や空き店舗の活用が相当進むのではないかと考えています。(オ)演劇祭一色になるのに適した人口規模世界最大の演劇祭を持っているアビニヨンが人口9万人、世界最大の映画祭を持っているカンヌが人口7万人です。豊岡の人口は8万人です。この規模でないとダメなのです。この規模でやることで、その期間中、町が演劇祭一色になり、そこに魅力を感じて世界中から観光客が集まってくるのです。他の地域づくりの事例として、岡山県奈義町をご紹介いたします。こちらは、先般岸田総理が訪問され、「特殊出生率2.95の奇跡の町」と話題になりました。 56 ファイナンス 2023 Aug.(イ)成功のための3つの要件(ウ)アジアのハブの演劇祭へ(エ)演劇祭とリンクした様々な取り組み(1)岡山県奈義町の例

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