ファイナンス 2023 Aug. 55令和5年度職員トップセミナーすることにしたのです。ヨーロッパの都市にとって、オペラハウスを建設することは、オリンピックを誘致することと同じくらいの大イベントなのです。そこに、ケント・ナガノという現在ヨーロッパで最も人気のある日系アメリカ人指揮者を音楽監督として、ミュンヘンから引き抜いてきました。彼が指揮者となる記念事業において、彼が日系人であることから、日本関連の企画をすることとなり、私に依頼が来たのです。観光や文化、経済などを含めた戦略の中で、アーティストの起用が決定されるのがヨーロッパの特徴です。こうしたものを「ナイトカルチャー」や「ナイトアミューズメント」と呼んでいます。昔は、男性だけが旅行することが多かったため、観光地の近くに歓楽街をつくっておけばよかったのですが、現在は家族で旅行することが多くなり、財布の紐は奥さんが握っていることが多いです。そのため、家族で楽しめるもの、子供と楽しめるもの、参加体験型のもの、そしてハイカルチャー・ハイスペック型のものが求められるようになりました。シンガポールは、かつては日本人観光客がショッピングを楽しむ街でしたが、シンガポールの経済が発展し、シンガポールドルが上昇するにつれ、ホテル代も高くなり、ショッピングの魅力が薄れていきました。そのため、シンガポール政府は観光政策を大きく転換し、ターゲットを日本人観光客から華僑の富裕層に変更し、彼らに何度も訪れてもらえる街にしようと考えました。例えば、国立のシンガポールオーケストラは東南アジア最高峰の技術を持います。良いプロデューサーさえいれば、「今回はヨーヨー・マ(チェロ奏者)を呼びましょう、今回は指揮者に大野和士を呼びましょう」とプログラムを書き換えていけば、バンコク、ジャカルタ、クアラルンプールのクラシック音楽好きのお金持ちは何度でもシンガポールに来ます。しかも家族で来ます。お父さんはカジノに行って、お母さんと子供はクラシック音楽を聴きに来るのです。これが文化観光の強みです。こういうサイクルを企画したり運営したり実践できる人材を育成しようというのが芸術文化観光専門職大学の狙いです。(6)豊岡の観光課題:国際リゾートへの脱皮豊岡市では、城崎温泉が観光のエンジンとなっています。周辺には天空の城竹田城や、おそばで有名な出石など、様々な観光地がありますが、大阪や神戸からの観光客は、朝に竹田城を見学し、出石でおそばを食べ、城崎で蟹を食べて1泊2日で帰ってしまうことが多いです。一方で、城崎の1泊2食で2万円の旅館モデルも限界に来ています。蟹は海洋資源であり、無限にとれるものではありません。(7)豊岡の文化政策における水平分業(8)国際演劇祭開催へ(ア)豊岡演劇祭最終的に狙うのは、海外からの富裕層による長期滞在です。つまり、城崎、豊岡、但馬が関西の一観光地から国際リゾートに脱皮できるかどうかが問われます。そのためには、昼間のスポーツと夜のアートが必須条件です。豊岡市の特徴のひとつとして、1市5町が合併したことにより、施設が余ってしまったことが挙げられます。そこで、私たちは水平分業、すなわち機能を分化することにしました。城崎国際アートセンターは作品を作る場として、ワークショップや教育目的の機能は駅前の市民プラザに、鑑賞事業は市民文化会館や永楽館という歌舞伎小屋が担うこととしました。旧日高町には何もありませんでしたが、町役場だった施設を私が私費で購入し、140名収容の劇場に改装しました。2020年から、新しく劇場ができたことを受けて、豊岡演劇祭が始まりました。この演劇祭は、フランスのアビニヨン演劇祭やイギリスのエジンバラ演劇祭のような、世界的に有名な国際演劇祭を目指しています。アビニヨン演劇祭は、正式招待された演目が約30ありますが、フリンジと呼ばれる自由参加型の大道芸なども含めると、世界中から約2,000の演目が集まり、1か月間にわたって開催され、世界中から観光客を集めます。この期間中、世界中からプロデューサーや芸術監督などが集まり、様々な演目を上演します。アビニヨン演劇祭は、見本市的な性格も持っている大きなフェスティバルとなっています。豊岡演劇祭でも、このような見本市的な性格を持った、アジアのハブとなるような演劇祭を目指しています。(5)シンガポールの取り組み
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