2.文化観光政策とは何か(1)アジア諸国は文化政策と観光政策を一体化本学のもうひとつの特徴は、「日本初の観光という名称の入った公立大学」という点です。「なぜ、観光と芸術なのか?」とよく聞かれますが、アジア諸国では文化政策と観光政策は一体で行われています。日本でも自治体レベルでは統一しているところがあります。沖縄県がその一例で、沖縄県には「文化観光スポーツ部」があります。日本だけでなく韓国のサッカーや野球も、観光オフシーズンの2月に沖縄でキャンプを行います。これにジャーナリストやファンも付随して訪れます。スポーツ観光は、沖縄にとって非常に重要な要素となっています。(2)増大するインバウンド:コンテンツが重要今後も、日本は訪日外国人観光客によって大きな経済効果が期待されます。訪日外国人観光客による消費は、ほぼ現金で行われるため、経済効果が大きいとされています。が7.8倍と、公立大学でトップになりました。倍率だけでなく、全国の様々な地域から学生が集まり、85%が本学を第一志望としています。また、8割以上が女子学生であり、地方都市からすれば喉から手が出るほど欲しい20歳前後の活発な女性が全国から集まるということで、将来的に人口減少対策に貢献出来ると考えています。本学の特徴は、「日本で初めて演劇とダンスの実技が本格的に学べる公立大学」という点です。ダンスにも力を入れており、スェーデンの王立バレエ団のプリンシパルダンサーであった木田真理子さんが専任教員として在籍しています。木田さんは、日本人で唯一「ブノワ賞」というバレエ界のアカデミー賞に相当する賞を受賞した実績を持つ方です。訪日外国人観光客については、観光業界の大変なご努力もありますが、円安と東アジアの経済発展が外的要因として大きく影響しています。今後、中国や東南アジアには約10億人の中間層が生まれるとされています。彼らが初めて訪れる海外として、安くて近くて安心安全な日本を選んでくれるものと期待されます。しかし、一度だけでなく何度も訪れてもらう必要があります。そのためには食べ物やスポーツなどを含めたコンテンツが重要になってきます。このようなコンテンツ重視の観光を観光学では「文化観光」と呼んでいます。日本人の観光も参加体験型に変化しており、中国や東南アジアの人々のニーズも同様に変化することが予想されます。文化観光の中でも、特に日本が弱いのが芸術文化だと言われています。ブロードウェイのように家族が安心して楽しめるミュージカルや、初老のご夫婦がカクテルを飲みながらジャズを楽しめるお店などは、まだまだ少ないと言われています。ウィーン国立歌劇場は、小澤征爾さんが音楽監督を務めていた、世界最高峰のオペラハウスのひとつです。ここは毎日異なる演目を上演することが定められています。オペラは、演劇と異なり、毎日同じ演目を上演することができません。ソリストの喉を休ませる必要があるためです。しかし、劇場を閉館してしまうと、海外から来た音楽好きの観光客は翌日ローマやパリに行ってしまいます。しかし、ウィーンで毎日異なるオペラが鑑賞できるのであれば、昼間はザルツブルクに行きモーツァルトハウスを見学し、夜にはウィーンに戻りオペラを鑑賞することができます。オペラを鑑賞するような富裕層は、良いホテルに宿泊し、良い食事をし、お土産も購入します。最低でも一泊あたり5万円相当は消費するでしょう。ウィーン国立歌劇場は2,000人収容できますから、直接消費だけでも1億円相当、年間250ステージあれば250億円相当の経済効果があります。さらにホテルやレストランの雇用や消費も生まれます。そのため、税金を使って毎日オペラを上演しても十分にペイする、というのがオーストリア政府の考え方です。冒頭で、ハンブルクの州立歌劇場でオペラをつくったお話をしました。ハンブルク市長は、すすけた港湾都市のイメージを変えるために、最初はオリンピックを誘致しようとしたのですが、住民投票で否決されてしまいました。そこで、代わりにオペラハウスを建設 54 ファイナンス 2023 Aug.(3)ウィーンの観光政策(4)ハンブルクの取り組み
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