ファイナンス 2023年8月号 No.693
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ファイナンス 2023 Aug. 53令和5年度職員トップセミナー現在では年間330日稼働しています。滞在するアーティストには短期的な成果は求めず、教育普及活動を行ってもらっています。お茶の水女子大学の浜野隆先生が作成した、小学校6年生の国語と算数の学力テスト上位25%のA層と下位25%のD層の家庭環境を比較した表があります。A層とD層の差が最も大きいのは「家には本がたくさんある」で、国語では24.6ポイントです。次に大きいのは「子供が小さい頃、絵本の読み聞かせをした」で、国語では17.9ポイントです。また、「博物館や美術館に連れていく」が国語では15.9ポイントで、「毎日子供に朝食を食べさせる」の10.4ポイントよりもずいぶん高い値となっています。また「子供が英語や外国の文化にふれるよう意識している」が国語で17.5ポイントあります。算数で10ポイントを超える要因としては、「絵本の読み聞かせ」「美術館、博物館」「家には本がある」「外国の文化に触れるよう意識」が挙げられます。これらは躾とか学問とは直接関係なく、体験に基づくものです。私はこれを「文化格差」と呼んでずっと問題にしてきました。文化格差、体験の格差が非認知スキルの格差につながって、非認知スキルの格差が身体的文化資本の格差につながって、これが教育格差につながっていくのです。非認知スキルは小学校低学年までに、身体的文化資本はティーンエイジャーまでに、それぞれ身に付くとされています。格差が生じる前に、格差が生じにくい教育システムを整備することで財政支出も少なくて済みます。豊岡市では、公教育の早い段階から文化体験を豊富に取り入れています。また、豊岡市内の美術館や劇場は、ひとり親世帯に対して無料で利用できるようになっています。こうした取り組みの末に芸術文化観光専門職大学が開学いたしました。但馬地方には、これまで四年制大学は一つもありませんでした。四年制大学の誘致は、地域にとって長年の悲願でした。本学は、1学年80名、全学年で320名の小さな大学ですが、毎年全国から若者が集まり、豊岡市にとって非常に大きな人口インパクトをもたらしています。私は東京藝術大学の教授も長く勤めていましたが、東京藝術大学でも音楽学部と美術学部しかありません。演劇学部はないのです。このような国は他にありません。他の先進国では、国立大学に演劇学部があったり、国立演劇学校を持っていることが多いです。また、他の先進国では、高校の選択科目に演劇がありますが、日本の高校には演劇の科目はありません。韓国は8年前に全ての高校の選択科目に演劇を導入し、台湾やシンガポールでも演劇の科目を持つ高校が多くあります。日本は、アジアの先進国の中でも、演劇教育において完全に後れを取っているのです。(イ)芸術文化観光専門職大学のいろいろな特色大学の話に戻りますと、1年次は全員が寮に入居します。個室ですが、4人が1ユニットとなります。北海道、東京、兵庫、沖縄、そして留学生など、様々な地域から学生が集まり、ネットワークを構築できるのも本学の特色です。本学のもうひとつの特色は、完全クォーター制であることです。春学期と秋学期の間の夏休みと冬休みには、集中講義や実習が行われます。800時間の実習が課せられており、公共ホールなどの運営実習や城崎温泉、JR西日本、京丹後鉄道などで実習が行われます。企業から課題を出してもらい、10日間程度の実習を行い、課題解決に取り組みます。これは1年生が行います。2年生になると、城崎温泉の老舗旅館や神戸のホテルオークラ、ネスタリゾート神戸などのリゾート施設や高級ホテルで1~2か月間の実習が行われます。学生にとっては、バイト代が支払われ、キャリアアップにつながり、単位も取得できるため、非常に人気のある実習となっています。地域初の大学として、各市町からの期待も大きく、行政と連携して取り組んだり、商品開発なども行い、初年度だけで19の地域連携事業を行いました。(ウ)高い志願倍率、全国から学生がやって来る本学は初年度にも関わらず、全入試合計の志願倍率(4)公教育の相当早い段階で文化体験を(5)芸術文化観光専門職大学(ア)但馬に四年制大学が誕生

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