0 年(出所)石川県「統計からみた石川県の観光」から筆者作成ファイナンス 2023 Aug. 51プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。近著に「公民連携パークマネジメント:人を集め都市の価値を高める仕組み」(学芸出版社)1,200万人/年1,00080060040020020070911金沢延伸1,0681,00684413151719宿泊客数日帰り客数コロナ禍21図6 金沢地域の観光入り込み客数年(2019)8月には唯一の百貨店だった大和高岡店が76年の歴史に幕を下ろした。新幹線の新駅に最高路線価地点が動いた他の例としては福島県白河市がある。北陸新幹線の沿線では金沢駅前の地価上昇が目立つ。これまでの例をみると新幹線の開業による周辺再開発の影響が大きそうだ。それが一過性か構造変化を伴うものかはケースによって異なる。金沢の地価上昇の背景には観光客の増加がある。図6から、新幹線の延伸を機に宿泊客、日帰り客ともに観光入り込み客数が増えていることがわかる。兼六園、3つの茶屋街など元々コンテンツに恵まれている点もある。他方、加賀百万石の城下町の外縁をイメージできる形で惣そうがまえ構遺構の復元を進めている点も挙げたい。金沢城址には元々金沢大学があった。新幹線効果を活かしたまちづくり日本政策投資銀行の見通しによれば、北陸新幹線の敦賀延伸による経済波及効果は年間309億円である。その源泉は観光やビジネス目的の旅客流入である。前提が若干異なるので単純比較はできないが、開通後の経済波及効果として石川県が678億円、富山県は304億円と試算されている。実際は移動時間が短縮されることによる効率化効果も大きいが説明に足る計算が難しい。本稿では最高路線価を活性化指標とみなしているが、旅客流入でホテルや物販の収益性が高まり、それが地価に反映する前提がある。大学の郊外移転を機に公園化が進んだ。他の地方都市と同じように金沢も中枢機能の郊外移転が相次いだ。石川県庁や地元銀行の本店が金沢駅西側の新都心に移転した。一見空洞化したように思えるが、旧県庁を近代建築遺産として観光資源(しいのき迎賓館)に改修するなど、歴史を活かした街の修景を進めているのが金沢の特長だ。「空洞化」は戦後復興から高度成長期にかけて上書きされた都市のコンテクストを剥がし、歩いて楽しむ城下町のコンテクストを復元する好機でもある。金沢は外国人観光客、特に欧米人の人気が高い。このようなインバウンドの振興に対する新幹線の貢献度が高い。2023年1月、米ニューヨーク・タイムズ紙の「2023年に行くべき52カ所」に岩手県盛岡市がロンドンに続く2番目に掲載された。見出しには「東京から新幹線でちょっと行ったところにある、人込みとは無縁の、歩いて観光できる魅力的な場所」とある。紹介文には、西洋と東洋の建築美学を融合させた大正時代の建物、古い旅館、城址公園(盛岡城跡公園)、そして蛇行する川が挙げられている。外国人観光客は日本に何回も来られるわけではない。重要なのはコストより時間だ。東京を拠点に日帰りできることがインバウンド集客の決め手となる。東京駅から盛岡駅まで乗り換えなしで2時間12分、14,810円(はやぶさ指定席eチケット予約)。これが外国人旅行者が感じる「ちょっと行く」だ。金沢駅まで2時間28分、14,180円(指定席eチケット予約)。新幹線開通前は4時間弱で乗り換えもあったと考えれば短縮効果は大きい。金沢と盛岡の共通点は戦災を受けていないことだ。市内の道幅が狭いことが課題となっていたが、これが歩いて楽しむ観点ではむしろ強みになっている。城址公園が充実していること、近代建築を残していることも共通している。新幹線効果を地域活性化につなげるためにできることは、駅前に移転した後の元・中心地を歴史と公園のコンテクストで再構築することではなかろうか。戦略的に都市観光の地力を育てることだ。
元のページ ../index.html#55