ファイナンス 2023年8月号 No.693
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北陸3県北陸3県図3 高校の所在県別にみた大学進学先1都3県京滋阪神東海3県新潟長野その他1都3県京滋阪神東海3県新潟長野その他新潟県長野県富山県石川県福井県大学の所在地/2002年度大学の所在地/2022年度37.342.319.612.611.729.619.714.648.37.952.213.59.818.47.623.010.713.416.35.328.09.18.89.5 (出所)文部科学省「学校基本調査」から筆者作成ファイナンス 2023 Aug. 49難しい。そこで、図2ではランキング形式で都道府県別の最高路線価の動きを示すことにした。長野市は昭和61年(1986)から、すなわちグラフの左端の平成5年(1993)の時点で最高路線価地点が長野駅前である。路線価自体は平成5年から約20年にわたって下落傾向にあったが、他都市に比べれば抑制的だった。そのため、ランキングにすることで新幹線等による上昇要因を抽出することができる。長野市の最高路線価は平成6年(1994)に30位だったが、翌年から順位を上げ、新幹線長野駅が開業した翌年の平成10年(1998)には18位となった。冬季五輪が開催された年でもある。新幹線の延伸は長野五輪に向けたインフラ整備の一環だった。こうしたことが長野市の最高路線価を押し上げたとうかがえる。もっとも、押し上げ効果は五輪終了を機に減衰した。最高路線価は平成11年(1999)から急減し、平成12年(2000)と平成14年(2002)には全国で最も大きい下落率となった。その後長野市の最高路線価は30位前後で推移しており、五輪開催を見据え急上昇する前の水準に戻っている。平成30年(2018)には福井市に追い越され、直近は31位である。長野市の例を見る限りにおいて、新幹線の開通が最高路線価を押し上げる効果は一過的なように思える。なお、北陸新幹線の延伸は長野駅が終着駅でなくなったことでもある。金沢延伸で長野市の最高路線価は変わらなかったことから、長野市において終着駅であることの効果はなかったようだ。ストロー効果と一極集中はあったか新幹線の開通のネガティブ面としてストロー効果による東京一極集中が挙げられる。万有引力と同じように都市の吸引力は規模に比例し、都市間距離に反比例するという説がある。新幹線の開通で都市間の時間距離が短縮し、大都市の吸引力に小都市が飲み込まれてしまうことに対する懸念だ。ただ、この論については慎重に考えるべきだ。遠距離通勤の範囲に組み込まれるほどならともかく、長野駅と東京駅は1時間20分で8,140円(指定席eチケット予約7/24調)。東海道新幹線なら浜松駅と同じくらいだ。時間距離はともかくコスト距離はそれほど近くない。たしかに、地方百貨店から都市百貨店の本店で買い物をするようになる一部の富裕層はいるだろう。とはいえ地方百貨店の経営悪化の要因は郊外大型店との競争によるものが大きい。インターネット通販の普及拡大で買い物行動に距離が関係なくなった要因はなお大きい。地方都市の商圏の縮小に新幹線が与えた影響は相対的に小さい。次に地域圏の変化について考えてみる。着眼したのは進学流動である。富山、石川および福井の北陸3県は歴史的に関西との関係が深かった。時間距離でいえば新幹線開業前は富山駅から東京駅と大阪駅がほぼ3時間半。乗り換えの手間がない分大阪駅のほうが近かった。それは地元高校生の大学進学先にも表れており、図3で示したように北陸3県は滋賀県を含めた京滋阪神4県の大学への進学割合が高かった。平成14年度(2002)、それでも富山県は1都3県への進学割合が京滋阪神より高かったが、石川県では1都3県が19.7%、京滋阪神で18.4%とほぼ同じ。関西により近い福井県は京滋阪神のほうが高かった。北陸新幹線が金沢駅まで延伸して以降、時間距離の中間点は富山駅から金沢駅に西進した。首都圏に近くなったことから進学流動も首都圏優位になると思われたが、令和4年度(2022)時点ではそうでもなかった。石川県から1都3県に進学する割合が12.6%なのに対し、京滋阪神はそれを上回る16.3%となった。北陸3県内、つまり広義の地元進学が増え、その分1都3県への進学が減少した。富山県、福井県でも1都3県と京滋阪神との差に特筆すべき変化は見当たらない。世代交代レベルの時間が経てば別の結果が出るかもしれないが、少なくとも進学流動においては、東京

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