ファイナンス 2023 Aug. 45史上の因果関係を求める方式を採用しており、貧困等のリスク要因の根源的な要因迄遡って連鎖関係が明らかになるという画期的な分析を行っている。これにより、貧困等のリスクへの予防的な対応が可能となったという点が重要である。(3)この調査分析では、リスク分析だけではなく、人々が持つ強み(Risilience)によるリスク低減効果を含め統合的な分析を行っている。子供を育てていく上で、個々のリスクに対応するよりも、それらの根源的なリスク要因に遡り、それを解決するために子供の持つ「強み要因」を育てることがより効果的であるという新しい視点を提供している。(4)同一人物の生活史データを約7,000人の方々からの回答を基にパネルデータに集約し、これを用いて多重回帰分析を行った。これにより、従来の機械的学習分析では、ブラックボックスとなっていた貧困への因果関係の流れを初めて具体的なデータに基づき理解可能な形で導き出している。画期的な成果である。(5)この調査では、若者世代で何が変わってきているかを明らかにするため、バブル崩壊後の「停滞の30年」に生まれ育った世代:「若者世代」とその親の世代であるバブル期に成長し、就職氷河期に就職した「団塊ジュニア世代」を比較し、その結果、両世代の人々の行動・生活・価値観に大きな違いが起きていることを包括的に明らかにしている点も注目に値する。3 画期的な分析結果これまで述べてきたような過去に例を見ない斬新な調査分析の結果、画期的な分析結果が明らかになった。(1)発達期リスクの急増若者の発達期の代表的リスクである「仲間遊び苦手」、「授業理解困難」等のリスクを経験した人の比率が若者世代では、彼らの親の世代である「団塊ジュニア世代」より急増している。(2)幼児期の社会性の発達の阻害要因「しかるしつけ」「父・母との接触少」「虐待」等の幼児期の社会性の発達を阻害する要因が「子供の貧困」以上に学齢期、青年期、就労期における問題に影響を与えている。(3)将来への波及幼児期の発達リスクが、将来のリスク例えば雇用リスク、心の健康リスク、ひいては貧困や要介護のリスクに大きく連鎖をしており、更には、母親の精神的ストレス(特に子育て不安)を通じて次世代の子供の発達期リスクにも大きな影響を与えている。(4)貧困の最大の増加要因最大の要因は、幼児期の親子関係である。「しかるしつけ」や「父接触少」の親子関係が「少年期貧困」以上に大きな要因となっている。このようにこの調査では、幼児期の子育て支援が最も重要な政策課題であることが示されている。一方、強みの要因では、幼少期の近隣の友人や大人等との接触(社会関係資本)がこれまで言われていたように若者世代で弱まってきているのではなく、逆に、不登校、引きこもりなどの発達期リスクを大きく低下させていることが明らかになり、コミュニティーの絆作りの重要性が示されたことも重要な点である。最後に、この調査は「子育て」政策を含む広範な社会福祉政策の多方面から見た政策効果測定の基礎ともなるポテンシャルを持っていると考えられる。本書が広く読まれ、CCS調査による膨大なデータを含め、今後この研究が多方面で進化、活用されることを心から期待している。
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