*7) (1)リスクアセットがグループ連結ベース比5%超、(2)営業収益がグループ連結ベース比5%超、(3)総エクスポージャーがグループ連結ベース比*6) TLAC規制に関するQ&A(第4条−Q1)では、「例えば、社債の募集に係る有価証券届出書及び目論見書において、当該社債が発行者たる国内処理対象銀行持株会社のその他外部TLAC調達手段として扱われることを意図していることを記載したうえで、当庁が発行者に対してその望ましい処理戦略に基づいて破綻処理権限を行使する場合においては、当該社債に係る元利金支払債務については発行者の破産手続を通じて処理されることにより、債権者が元利金の一部又は全部の支払を受けることができない可能性があるリスクにつき、必要に応じて『主要行等向けの総合的な監督指針』Ⅲ−11−6−2−2に言及するなどして記載することが考えられます」と指摘しています。詳細はTLAC規制に関するQ&Aを参照してください。https://www.fsa.go.jp/policy/basel_ii/tlac_QA.pdf*8) 日本経済新聞「三菱UFJ新社債、人気、計画の4倍、三井住友も9日発行」(2016/3/4)等を参照してください。5%超、(4)その他、危機管理グループにおいて主要子会社グループと特定されたものの、のどれか一つに該当しているもの、とされています。造上の劣後を「構造劣後」といいます。国際合意上、この構造劣後を使う場合には、原則としてその他TLAC適格商品の発行体である持株会社において、その他TLAC適格商品と同順位又は劣後する除外債務がないことが求められており、そのような除外債務が外部TLAC全体の5%を超える場合、構造劣後性が認められないとされています。そのため、本邦規制においても同様の要件が求められています。もっとも、TLAC債は、形式的には3メガバンクや野村HDの持株会社のシニア債として発行されるので、通常のシニア債との区別がつきません。したがって、TLAC債が有するリスクを明らかにするために、目論見書等に構造劣後を記載することが求められています*6。長期性長期性として、TLAC債については年限が1年以上であることが求められています。ステップアップ金利や早期償還条項についても一定の制限がなされています。これらはBⅢT2債と比較的似た要件と考えられます(BⅢT2債の場合、例えば年限について5年以上が求められていました。詳細は服部(2022b)を参照)。最低額面TLAC債については最低投資額が1000万円になっています。これはAT1債やBⅢT2債にはない条件ですが、投資家保護等の観点で、個人投資家を一定程度排除する措置と解釈されます。前述のとおり、TLAC債は持株会社が発行するシニア債であるため、優先劣後関係を考えると、AT1債やBⅢT2債よりリスクが低いといえます。しかし、これまで説明してきた通りTLAC規制そのものは非常に複雑であるため、その複雑性を考慮し、少額の投資を行う個人投資家を排除する仕組みが取られていると解釈できます。ここまで外部TLACについての適格要件を説明しましたが、破綻時にグループ内子会社から持株会社へと損失を移転するために用いられる内部TLACについても適格要件が求められています。そもそも、内部TLACは、持株会社が外部TLACとして調達してきた資金をもとに、内部の子会社に対して貸し付けや出資等を通じて資金提供するとともに、子会社が損失を被った場合、債務免除等により損失を持株会社に移転することが目的でした(詳細は服部(2023a)を参照してください)。内部TLACの適用対象となる子会社は、一定の基準*7に基づく、重要なグループ子会社とされています。内部TLAC適格調達手段による損失移転(持株会社による債務免除)は契約上のトリガーによって行われることとされており、金融庁の命令によって契約上のトリガーが引かれることとなります。金融庁がどのような基準で内部TLACのトリガリングを命令するかについては、監督指針に具体例が記載されていますが、当該子会社が債務超過若しくは支払停止又はそれらのおそれがあると認め、グループ内での支援等の代替手段もないような場合が想定されています。内部TLACの所要水準は、仮に主要な子会社が破綻処理対象法人となった場合に必要となる外部TLACに対して、75%~90%の水準とされています。国内における主要子会社については、監督指針において、外部TLACを「原則として75%としたうえ、(1)当該金融機関グループの望ましい処理戦略、(2)当該主要子会社のシステム上の重要性・資本構成・ビジネスモデル等を踏まえ、事前配賦の必要性に応じた調整を行う」としています。日本におけるTLAC債発行状況について確認します。我が国では、2016年に「枠組み整備方針」が公表されたことを受け、2016年3月前後から、まず3 メガバンクがTLAC債の発行を始めました*8。その後、2018年に枠組み整備方針が改訂され、野村HDのTLAC債の発行も始まりました。 28 ファイナンス 2023 Aug.2.2 内部TLAC適格要件3.その他の話題3.1 我が国におけるTLAC債の発行推移
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