ファイナンス 2023年8月号 No.693
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ファイナンス 2023 Aug. 27*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、吉良宣哉氏、匿名の有識者等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文や文献の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 *3) 具体的には、TLAC告示4条の4で規定されています。*4) 吉井等(2019)のp.363を参照。*5) 吉井等(2019)のp.363を参照。https://sites.google.com/site/hattori0819/東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*11.はじめに本稿では、「我が国におけるTLAC(総損失吸収力)規制―ベイルアウトからベイルインへ―」(服部, 2023a)および「我が国におけるTLAC規制―我が国4SIBsに対する破綻処理スキーム―」(服部, 2023b)で取り扱えなかった話題を取り上げます。具体的にはTLAC債にかかる適格要件に加え、これまでのTLAC債の発行状況、さらにTLAC保有規制について解説します。本稿では服部(2023a,b)を前提としますので、TLAC規制の概要を把握したい読者は同論文を参照してください。また、本稿では、筆者がこれまで説明してきたバーゼル規制の一連の文献を前提にしています。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。2.TLAC適格要件2.1 その他外部TLAC適格要件以下では、まず、いわゆるTLAC債(その他外部TLAC調達手段)の適格要件について確認し、その後、内部TLACの適格要件について解説します。AT1債とBⅢT2債の要件については、服部(2022b)で説明されているため、そちらを参照していただければと思います。構造劣後その他外部TLACにおける重要な要件の一つは、劣後性です。国際合意では、契約上、法律上、構造上いずれかの形で、預金保険の対象となる預金等、元本削減の対象とならない債務(これを「除外債務」*3といいます)に劣後していることが求められています。吉井等(2019)では、この要件を以下のように説明しています*4。(1)契約上、除外債務に対して劣後すること(契約上の劣後性)(2)法律上の債権者順位において、除外債務に対して劣後すること(法律上の劣後性)(3)TLACと同順位又はTLACに除外する除外債務を有していない破綻処理の対象となる組織(持株会社等)が発行していること(構造上の劣後)本邦TLAC規制においては、対象となる4SIBs(3メガバンクおよび野村HD)の持株会社が発行するその他外部TLAC調達手段について、これらのうち「契約上の劣後性」又は「構造上の劣後性」のいずれかが必要とされており、日本の4SIBsがこれまで発行したTLAC債については構造劣後とされています(吉井等(2019))*5。TLAC債は、持株会社が発行する無担保シニア債の形をとりますが、実質的に倒産処理の中の弁済順位が子会社の債務等に対して劣後することで、劣後性が認められることとなります。構造劣後を考えるため、例えば、あるメガバンクの持株会社とその子会社の関係を考えます。持株会社は単にハコにすぎないとみることもできるため、持株会社の収益等はその子会社に依存しているといえます。この状況では、持株会社の債権者は、親会社の債権者に対して劣後していると考えられます。このような構TLAC規制に係るその他の話題―適格要件・発行状況・保有規制―

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