ファイナンス 2023年8月号 No.693
30/80

[4]. 松下淳一(2010)「銀行持株会社の破綻処理のケーススタディ」[7]. 預金保険機構(2007)「平成金融危機への対応 預金保険は参考文献[1]. 五味廣文(2012)「金融動乱:金融庁長官の独白」日経BPマーケティング[2]. 服部孝洋(2023a)「金融機関の破綻処理及び預金保険入門」『ファイナンス』3月号.[3]. 服部孝洋(2023b)「我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム−」『ファイナンス』4月号.平成22年度金融法務研究会[5]. 山崎美代造・斎藤秀樹・■田勝美(2015)「足利銀行一時国有化と企業再生の軌跡:歴史の記録として」下野新聞社[6]. 柳澤伯夫(2021)「平成金融危機 初代金融再生委員長の回顧」日本経済新聞出版いかに機能したか」金融財政事情*16) 詳細は、「平成20年 6月足利銀行問題等地域活性化対策特別委員会(平成20年度) 足利銀行問題等地域活性化対策特別委員会会議記録」等を参照*17) 日本経済新聞「SBI新生銀、消えぬ火種 公的資金返済めざしTOB成立 株価、買い付け価格超え 市場の不信感映す」(2023年6月24日)してください。預金保険法102条第三号措置(一時国有化)について機能の発揮」をベースに2社に絞り、最後の第三段階で、「公的負担の極小化」も考慮のうえで、野村ネクストグループ(野村フィナンシャル・パートナーズ株式会社及びネクスト・キャピタル・パートナーズ株式会社を中心に構成される企業連合)が選定されました。前述のとおり、預金保険法102条の第三号措置は栃木県経済に配慮されたことから実施されたことを考えれば、足利銀行が再生することに伴う地域とのつながりも重要といえます。金融庁は足利銀行の受け皿としての基準として、「地域における金融仲介機能の発揮」も重視しており、足利銀行のケースでは、地域活性化対策特別委員会等を通して、野村グループ等に対して、地元からの要望が伝えられる等のコミュニケーションがなされています。実際、同委員会は野村グループ等がその要望を受け入れた点等を評価しています*16。以上が足利銀行が一時国有化されてから再民営化するまでの流れになりますが、上記をまとめると、りそなHDのケースとは異なり、足利銀行は債務超過に陥っていました。そのため、株価をゼロにして預金保険機構が買い取り、特別危機管理銀行として一時国有化する一方、リストラや資産売却等により債務を圧縮します。預金保険機構は一般勘定で資金援助した後、その株式を民間金融機関に売却することで一時国有化を終了しました。このスキームではりそなHDと異なり、株価がゼロになるという形で株主の責任が取られるとともに、公的資金が注入されていない点が大きな特徴といえましょう。なお、本稿では一時国有化という破綻処理に焦点を当てているため、足利銀行が破綻に至った経緯や地域への影響等については触れておりません。これらに関心がある読者は松下(2010)、山崎・蓬田・斎藤 秀樹(2015)、児玉(2017)、足利銀行問題等地域活性化対策特別委員会の報告書等を参照してください。また、2013年に足利HDは上場していますが、本稿では破綻処理に焦点を当てているため、コンソーシアムを形成し、足利銀行が増資し、再民営化したところまでの解説となっています。3.終わりに本稿では足利銀行との一時国有化を取り上げましたが、一時国有化といえば、日本長期信用銀行(長銀)と日本債券信用銀行(日債銀)の事例も有名です。これは預金保険法102条スキームが生まれる前の時限立法により処理されたため、そもそも適用された法律が異なります。もっとも、預金保険法102条がそれまでの時限立法をベースに作られたことから、その類似性も少なくありません。長銀と日債銀の破綻やその処理については柳澤(2021)が詳細に整理しているため、その説明は同書に譲ります。りそな銀行や足利銀行の事例をみると、公的資金注入や一時国有化は比較的うまく機能したように見えるかもしれませんが、新生銀行は現時点でも公的資金の返済が終わっていません。最近の動きとしては、2023年に新生銀行はSBIHDによるTOB(株式公開買い付け)により上場廃止となり、その後、公的資金の返済を目指すとの報道が出ています*17。その意味で、公的資金の返済が長年にわっても終わらない事例が存在することにも留意してください。本稿では長銀と日債銀の事例は取り上げませんでしたが、新生銀による返済が終わったタイミングで筆者が整理しようと考えています。 26 ファイナンス 2023 Aug.

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る