*4) 預金保険機構(2007)では、足利銀行に関し、「同行の全株式(普通株式、優先株式)は、債務超過により対価ゼロ円で『一般勘定』が取得し、保有https://sites.google.com/site/hattori0819/(簿価ゼロ円)している(『危機対応勘定』等の取得・保有ではない)」(p.287)としています。*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 *3) 会計検査院資料では、「金融庁が16年10月に公表した上記公告時点での同銀行の貸借対照表によると、資産の部は計4兆9,263億余円(うち貸出金3兆7,945億余円)、負債の部は計5兆210億余円(うち預金4兆5,579億余円)と、947億余円の債務超過となっている」としています。詳細は下記をご覧ください。https://report.jbaudit.go.jp/org/h15/2003-h15-0775-0.htm東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*11.はじめにこれまで「金融機関の破綻処理制度及び預金保険入門」(服部, 2023a)や「我が国における公的資金注入および一時国有化スキーム-」(服部, 2023b)等を通じ、我が国における金融機関の破綻処理制度を説明しました。特に、服部(2023b)では預金保険法102条の概要を説明した後、りそな銀行の事例(預金保険法102条第一号措置(資本増強))を取り上げました。もっとも、預金保険法102条の事例として、第三号措置(一時国有化)が適用された足利銀行の事例もあります。そこで本稿では足利銀行の事例を取り上げ、破綻処理スキームに対する理解を深めます。2. 預金保険法102条の第三号措置(一時国有化):足利銀行の事例本稿は服部(2023b)を前提としているので、預金保険法102条の概要の確認が必要な読者は服部(2023b)をご参照ください。また、筆者がこれまで説明してきたバーゼル規制の一連の文献も前提にしています。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。足銀銀行については、預金保険法102条第三号措置が発動し、一時国有化がなされました。一時国有化が必要だと判断された理由は、足利銀行が破綻した場合、システミック・リスクがあると判断され、かつ、足利銀行が債務超過であったことが挙げられます(足利銀行は、947億余円の債務超過でした*3)。もっとも、この二つの条件であれば、預金の保護をしたうえで、破綻処理を行う第二号措置と、地域経済に配慮して、一時国有化しつつ経営を継続するという第三号措置という二つの選択肢がありえます。破綻処理において第二号措置と第三号措置についての選択があった中、一時国有化である第三号措置が選ばれたことについて、五味(2013)は、「不良債権と優良債権を切り分け、銀行をいわばばらばらにする第二号措置では、栃木県経済は崩壊の危機に瀕していただろう。金融機関としての機能をそのまま維持して営業を続け、受け皿への譲渡という将来のステップを考える第三措置のやり方が最善だった」(p.124)としています。足利銀行のスキームの大枠は次のようなものです。まず、金融危機対応会議が開かれ、内閣総理大臣により足利銀行に対する特別危機管理の必要性の認定がなされました。具体的には、債務超過により第三号措置を適用し、足利銀行は特別危機管理銀行に指定され、一時国有化がなされました。預金保険機構が足利銀行の株式を保有することになり、株価はゼロとされました*4。この点は、預金保険機構の危機対応勘定のバランスシート(BS)にりそなHDの株式が計上された点と大きく異なります。図表1は足利銀行に適用されたスキーム図です。左上に破綻銀行の記載がありますが、まず株価がゼロの状態で預金保険機構が足利銀行の株式を購入します。足利銀行は特別危機管理銀行として一時国有化され、 22 ファイナンス 2023 Aug.2.1 足利銀行のスキーム預金保険法102条第三号措置 (一時国有化)について―足利銀行の事例―
元のページ ../index.html#26