チェックインし、セキュリティチェックを受けた。ジャケットを脱ぎ、PCを出し、ベルトを外し、靴も脱ぐ。無事スクリーニングを終え、またいろいろなものを回収し、バッグに詰め戻し、ゲートに向かおうとしたが、おなかの回りに違和感がある。ズボンが下がる。そう、ベルトが無い!慌てて5歩戻り、ベルトコンベアーの上の大きな箱を1つ1つチェックする。無い。係官に尋ね、探してもらうが、無い。既に積まれている箱も見たが、無い。箱の内側側面にへばりついていたか、スクリーニングのブラックボックスの中で落ちたか。魔法のように消えたベルトは、こんなにも心と身体を惑わせるのか。その後のNYで、定期的にズボンを手で吊り上げながら、面会先の人々と話す自分がいた。ワシントンからの飛行機の続きである。置いて行かれたベルトの祟りか、飛行機は1時間以上遅れ、更に、NYの空港で着陸後、ゲート前で、「少し飛行機を動かします」とパイロットが告げ、電車が駅でオーバーランしたときの対応と似たことをやる。それが終わっても、まだ15分以上機外に出れず待たされる。どうして下ろしてくれないのだろう。これから面会の約束があるのに。ドアは既に開いているが、機長が出てきて、焦った表情でドアの辺りで空港係官と話をしている。しばし経ってアナウンスがあり、「Bridgingに時間を要しました、申し訳ありません。これから注意して降りてください。」 は?ブリッジ?何に注意する?行ってみて分かった。機体ドアと、ゲートから伸びるアクセス通路の間に、2mほどのギャップがあり、それを即製のブリッジが橋渡しをしている。こわごわとその橋を渡る。ハイテクが詰まった飛行機と、プラスチックと金属棒を急造で組み合わせたブリッジとのギャップが不思議な光景を造る。何故こんなことになったのか、様々な妄想が頭をよぎる。 その晩、コロンビア大学のT.I.教授と会食した際、その話をした。教授は大いにその話を楽しみ、こう言われた。「大矢君、飛行機は前後に動けるが、横には動けないからねえ。」飛行機は、辛いよ。2023年7月7日に、NY市のブルックリン地区にある「Brooklyn Kura」という清酒(SAKE)を製造する企業を訪問した。これは米国で清酒を製造する数少ない米国企業の1つであり、新潟県のH醸造から技術面・出資面で支援を受けている。まだ小規模だが、3か月後の完成を目指し、規模拡大工事中である。そして地元のデベロッパーの支援も受けて、ハード製造面だけでなく、試飲も出来、清酒の教育のために実地で講習会が出来る等、ソフト面での充実も図っている。大きなリスクも抱えながら、創業者の2人の米国人の夢は果てしない。まだ米国の4州にしか出荷していないが、更に質の高い酒を造り、アジア市場にも事業展開したいと言う。日本企業も関与しているから、そして日本の酒をグローバルなものにすることはとても大事なことと思っているから、必要であれば支援を行いたい。「I can offer support to your unlimited dream. 」こうしたセリフを言うことは滅多に無いが、こういう仕事を自分がしていることは少し幸せだとも思う。(下の写真は、Brooklyn Kura拡張工事現場前での1枚)2.リスク・テイカー飛行機の話が長過ぎ、飛行機リスクに食傷気味になられた方も多いと思うので、今の私の仕事の話も交えながら、前を向いてリスクを取って生きる人たちの話をしたい。 18 ファイナンス 2023 Aug.(5)飛行機のドアの向こうは、橋だった。(1)ブルックリンの酒蔵にて(2)幽玄なる有言実行、Tomの“I told you”次は取るべきリスクについて話をしたい。突然話は
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