ファイナンス 2023年8月号 No.693
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写真 2 井上 咲楽さん ファイナンス 2023 Aug. 11に基づくものでした。一方、今の日本で何をもって平等と考えるのか、人によって尺度が異なるため、私たちもいつも悩んでいます。中村次長 今日は長くしゃべりすぎないように日向寺さんから言われています。税や予算は税率や金額など数字で表記されるが故にごまかしが効きません。それだけに平等さや公平性、あるいは優先度などをきちんと議論し、丁寧に説明しなければなりません。また、これという正解はなく、議論をする中でベストの解を探り当てていくことになります。財務省はそうした議論を担う役回りだけに、「理屈っぽい」というイメージも持たれてしまっています。悩んでいること自体はどれも当たり前のことなのですが、それらをどう伝えていけばよいのか、難しく感じています。井上咲楽さん 時代が変わると、働く職員の方々にとっても難しいことが増えてきたりするんでしょうね。池田主任 財務省は財政健全化の必要性を主張してきていますが、最近は「債務残高が増えても問題ないのでは」という意見も多く、理屈一辺倒では進まないことも出てきています。井上咲楽さん 私たちの世代や次の世代は大丈夫なのか、という漠然とした不安は感じています。政策の実施には財源は必要だと思うので、税収が減ったら社会保障や次の世代にどう影響がでるのかは、すごく考えます。池田主任 自分も同世代として、もし日本が財源を調達できなくなったら、医療サービスや道路などを維持できなくなるかもといった、同じ不安を感じています。井上咲楽さん お金の負担に対する考え方は、海外と日本では違いがあるのでしょうか?中村次長 日本は戦後、安全保障上、或いは経済面での大きな危機のない国だったので、危機を現実のこととして想定することに慣れていないと感じます。しかし、このところ日本でも安全面・経済財政面の様々なリスクが高まってきています。これまでの状態が必ずしも今後も続くものではないと意識されるようになると、負担についても「人任せにせず、一緒になって考えよう」というように変わっていけるのではないでしょうか。井上咲楽さん 世界情勢が大きく変わっていく中で、日本だけ変わらないことの怖さがありますね。一方で物価高の中で給料が上がらず、その中で負担が増すことに反対という声も判るし、すごく難しいと思います。日向寺室長 海外と比べると、日本は、政府への期待が大きいと思います。例えば日本では必要なときにすぐに病院で受診できますが、イギリスではかかりつけ医でも2週間待ち、その後病院の紹介を受けても長期間行けないというようなことも場合によってはあります。保育園代も毎月20万円位かかることもあります。そのため、海外では政府に対する期待というのがあまりないのではないかと思いますが、こうした実態は日本では認識されていないのではないでしょうか。井上咲楽さん なるほど。世界と日本の関係はまた後程伺いたいことがありますが、平等の話に戻ると、何か特定のことに力を入れ「偏る」ことは簡単ですが、なるべく多くの人が幸せになる「平等」を考えるのは難しくありませんか?中村次長 本当に困っている人に支援を集中するのか、広く薄くするのか、そのバランスはとても難しいですよね。例えば児童手当では、今の制度は所得が高い人は対象外で、限られた予算の中でできるだけ困っている人に渡すという仕組みですが、これに対しては「頑張って所得を上げたら支援を受けられなくなってしまうのはあんまりだ」という意見もあります。皆が納得する正解はないのですが、何が最適なのか役所だけでなく皆で考えていく、結果だけでなくそのプロセスも問われる時代になっているのではないでしょうか。井上咲楽さん まさにそのプロセスとして一つ伺いたSNSの影響について

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