写真 4 主計局調査課長 松本 圭介ファイナンス 2023 Jul. 5成田悠輔さん もう一つ別の対立軸として話してみたいのが、金持ちと庶民の対立です。日本は「お金持ちをいじめるのが得意な国」とよく言われています。所得税や相続税が高いと指摘されていて、自分の周りでも海外へ出るお金持ちが多いです。大きな税収を生み出す人が海外に出てしまう状況について、どのような認識なのでしょうか。河本課長 お金持ちのいう「負担が大きい」という話の比較対象はシンガポールなどの税率の低い国だと思いますが、予算規模でみると、やはりそうした国では低い税負担に見合った公共サービスしかありません。他方で、「受益が少ない」という話の比較先はだいたい北欧諸国ですが、これらの国では相応の税負担があります。それぞれ一面しか見ていない主張にどう向き合っていくかはいつも考えさせられます。シンガポールの税負担はG7のどの国よりも低い水準で、それに日本が対抗することはないと思います。現在の公的サービスのレベルを維持するならば。また、シンガポールへの移住や進出は税以外の要因も併せて考える必要があると思っています。あと、日本人は、「海外で活躍する日本人」を応援することが好きな傾向がある気がしますが、個人的には、日本で生まれて日本の公教育を受け、日本の安全な社会の恩恵を受けて育ってきた人達が、その環境を次世代に引き継ぐための負担をすることなく、「税金が安いから」という理由だけで外国に移住してしまうということを、もう少し疑問視する姿勢があってもいいのかなという気はしています。成田悠輔さん 加えて日本の特徴として、儲けられるだけ儲けたいと思っていない企業が多いのではないかと勘繰っています。京都の老舗旅館など、一泊100万円にしてもお客が来ると思いますが、10万円に抑えています。おそらく、誰でもがんばれば手の届くような価格帯にすることが、正しいビジネスの在り方だと考える日本企業が多いのだと思います。そもそも日本では、すごくいいものをすごく高く売るというビジネスが大成した例がないことも要因なのかもしれません。河本課長 「より良いものをより安く」という言葉が本当にそれでいいのかと最近指摘され始めていますね。似たような話をすると、東京のあるラーメン屋では開店時から閉店時まで常時40分くらいの行列ができていますが、経済合理的な行動をすれば、行列が例えば5分に縮まるところまで価格を引き上げることで、人的投資や設備投資を全くしなくても収益を倍増できるでしょうし従業員に払う給料も引き上げられます。消費者が考える付加価値に見合ったプライシングをするだけですが、この「消費者余剰を取りにいかない営業」は、とても日本的だなと感じます。成田悠輔さん 税や価格の仕組みを、一物多価的に柔軟化していくような変革が起こるのではと最近考えています。キャッシュレスが進む中で、個人の消費行動や収入等がデータとして蓄積され、それを踏まえて個人ごとに異なる価格や税が設定される、みたいな時代が来ると考えています。現に一部のEコマースでは実装されていて、同じ物の値段が見る人によって違ったりしています。松本課長 消費税の軽減税率導入の議論の際に、税率そのものを変えるのではなく、所得の低い方々に事後的にポイントで還元する案が浮上しました。当時は見送られましたが、キャッシュレス環境も進んでおり、技術的には実現できるのかもしれません。河本課長 シンプルに言うと、同じ財・サービスを購入するけれどもお金を持っている人は多く払ってね、という仕組みでしょうか。価格設定に累進構造が盛り込まれるようなものですね。直観的には、そうなると財源調達のための税金は単一の比例税率だけでよく、税の持つ所得再配分機能は価格メカニズムに委ねられることになるような気がします。究極的には、給付を含めた政府の所得再分配政策は必要なくなり、国家はそれこそ夜警国家的な役割に戻るのかもしれません。ほとんどSFのような話ではありますが、外国で観光国家と税・通貨のイマ国家と税・通貨のミライ
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