PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 21 ファイナンス 2023 Jul. 69も有るわけですが、多くの研究者がこのデータに関心を持っていると感じます。渡邊:現在利用している以外の税務データを扱う研究を行うとしたら、どのようなデータを使うと分析に有益だと思われますか。宮川:最も関心があるのは、インプットのデータです。今回はアウトプットに対応する売上高を使ったわけですが、人件費や設備投資、更に、イノベーションの源泉となる研究開発への支出といったインプット側のデータを含めて分析出来れば素晴らしいと思います。アウトプットについても、売上高だけではなく、付加価値の計測を含めた検討の余地が残されていると思います。渡邊:最後に、税務データを用いた研究に関し、財務省や国税庁に期待することについて、教えてください。宮川:期待することは3点あります。まず1つ目は、今後も共同研究を長期に亘って継続して頂きたいということです。現在進行中の第1期、第2期の採択研究が優れた結果を生み出すことが勿論期待されるわけですが、仮にこれらの初期のプロジェクトの結果がデータ整備などの比較的地味な成果に留まったとしても、共同研究活動を続けることで着実に成果が蓄積されていくはずです。国税庁では来春から国税専門官の理工・デジタル採用を創設すると伺いました。データ分析は、専門的な技術や経験の蓄積が重要です。短期的に成果が出なくとも、データ蓄積や人材育成を進め、共同研究を続けることが何より重要だと考えます。2つ目は、税務データへのアクセス環境の整備です。税大和光校舎の共同分析室だけでなく、財務省・国税庁や地方の関係機関等でも税務データを利用できる環境が整うのであれば、より幅広い範囲の研究者がプロジェクトに参画できるようになると思われます。セキュアな環境でデータにアクセスするということを最優先すべきだと思いますが、こうしたセキュリティ面に支障がない範囲で、データへのアクセス環境の整備をご検討いただければと思います。3つ目は、職員個人が執筆者となり、個人の名前が残るような仕事に対する組織の理解が高まってほしいと思います。今回のDPでも、研究活動に貢献頂いた税大職員の方に共著者へ入っていただきました。研究や分析の仕事では、その人の業績を構成する具体的な論文がないと、意味のある交流が始まりません。特に、海外の同種の機関との交流の中では、名刺代わりになる研究成果の有無が重要になると考えます。役所は組織単位での活動が重視され、資料も組織名で公表する場合が多いと思いますが、個人名で公表した成果であっても、組織に貢献しているという点では同様に意義があります。財務省・国税庁・税大の皆さまにおかれても、共同研究では臆することなく積極的に関わっていただき、貢献度に応じて適切に執筆者として名前が載る成果をしっかり出して頂くことを期待します。なお、今回の税務データを用いた共同研究では、研究者が共同研究者として採択され、国家公務員として任命され、税大で研究活動を実施しています。将来的には、逆に国税職員の方が大学等のアカデミアの世界にお越しいただくような相互交流ができれば、より良いのではないかと考えます。学術的な知見と、実務的な視点は、行政データの分析のうえで、共に重要な両輪であると考えます。今回の共同研究を通じて、財務省及び国税庁に、単発の研究にとどまらない、情報や知識を活用する土壌や人的資本といった、充実した財産を残すことができれば素晴らしいと思います。
元のページ ../index.html#73