*5) DP「The U-shaped law of high-growth ■rms」は、国税庁の税大HP以下URLに掲載されています。(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kyodokenkyu/kohyo/pdf/230200-01HJ.pdf) 68 ファイナンス 2023 Jul.が極めて高く、かつ母集団に近いデータです。様々なデータを使用して分析する際のベンチマークになりうる素材だろうと思います。自分たちが今まで使ってきたデータを税務データと比較することで色々なことが分かると思います。例えば、売上金額の分布という文脈で考えてみると、ある地域の特定の業種について税務データから見える分布と、民間のデータベースや他の政府統計から得られる分布を比較した時の同異は、それらのデータベースを用いた分析の信ぴょう性を検討する上で有用だと思います。渡邊:税務データを研究で用いる準備をする上で、何が一番大切だと感じましたか。宮川:実務をよく知る税大の職員の方と密接にやりとりしながら研究を進めることだと思います。特に、分析用のデータセットを構築するための処理を行うプログラムを、こうしたやり取りの中で構築する作業がとても貴重な経験となりました。実務についての理解があやふやなままで進めると、大体の場合、分析を誤ります。職員の方と議論することで、どういった背景の下でデータが構築されているのかをよりよく理解できました。税務の現場をよく知っている方とコラボレーションしながら分析するという共同研究のスタイルが、振り返ってみると、研究の質を担保するために最も重要なポイントだったと思います。渡邊:本年4月にDP「The U-shaped law of high-growth ■rms」を公表されましたが、読者や政策担当者がどういった点に着目すると有益な示唆を得ることができるでしょうか*5。宮川:今回の論文のテーマは、売上高成長率で計測した企業成長のパターンを、ほぼ全ての法人が申告している税務データ、すなわち母集団に近いデータで描写しようというものです。特に、一定期間において高成長を遂げた企業が、各年においてどのような成長パターンを示したか、が中心的な関心事でした。結論を要すれば、社齢の若い企業を除くと、複数年をかけてじわじわ成長した結果として高成長を実現するというパターンは例外的であり、ある年に急速な高成長を挙げているパターンが支配的でした。つまり「高成長企業は急成長企業」である、という結論になります。過去30年に亘って日本経済の停滞が指摘されてきました。人口が減少していく中で成長の種になるようなものを見つけていかなければならないという問題意識が、常に政策に関する議論の真ん中にあると思っています。この点に関して、例えば、日本には老舗企業が多く存在するわけですが、そういう企業がもう一段階高い成長を遂げようと思ったときに、じわじわ成長しようというアプローチでは難しく、ジャンプするような形での急成長を目指すしかないという含意が今回の結果から得られます。経済成長のために何らかの政策を立案する、もしくは企業の経営戦略を考える際に、こうした実証事実が何らかのヒントになると思います。本研究に関して、研究者仲間からは、実証結果の意義だけではなく、法人税データの中身を理解するという意味で有益だったという反応がありました。将来、こうした税大との共同研究プロジェクトが進むにつれて、利用できる法人税データの範囲が拡大する可能性
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