ファイナンス 2023年7月号 No.692
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*1) 日経ビジネス電子版 政策道場「世界ワーストの債務残高水準 日本の財政は持続可能か」、 写真 2 成田 悠輔さん「税金は嫌われ者 税制の『納得感』をどう高めていくべきか」ファイナンス 2023 Jul. 3松本課長 主計局の松本です。1つの問題として、受益と負担の認識が分断されており、税などの負担の部分が強く意識されるのに対して、受益の部分の認識が薄いことが影響していると感じています。ある学者さんのアイディアですが、公的なサービスを受けるとき、負担がきちんと還元されていることが認識できれば、理解が変わってくると思います。実現可能性はともかく、例えば、病院での支払いの際に、税金や保険料で賄われた受益の部分も明示するようなイメージです。成田悠輔さん 受益については、補助金などのお金に目が行きがちですが、社会生活の品質全体が受益の結果ですよね。日本ほど安全できれいで、公共交通もちゃんと動く国は他にほとんどありません。実際、Social Progress Indexというものがあり、経済だけでなく、環境や衛生、メディア、教育などの質を総合的に指数化しています。この指標で日本は今でも北欧に次ぐ世界8位です。松本課長 他方で、幸福度や満足度といった国民の意識で測ると、日本は低いですよね。政府内でも、経済運営の成果を測る尺度のあり方について議論がありますが、成田さんのおっしゃった生活の質の高さに着目することも大事かもしれません。河本課長 負担の話になると、みんな「無駄の削減を」と言いますが、誰しも「自分以外の分野」に無駄が「あるはず」というだけです。そんな中で、いやいや、まだ負担なんて求めなくてもいいんだよ、というMMTのような説について、成田さんはどういった認識でしょうか。成田悠輔さん 貧困化する日本が生むルサンチマンを晴らすために仮想敵を作るとすると、財務省か自民党か大企業くらいしか候補がいません。この仮想敵路線を過激化すると財務省陰謀論やザイム真理教叩きになり、割合はごく一部ですが、絶対数ではそれなりにいる印象です。批判側との生産的な論戦を張れなかった財務省やマクロ経済学者の側にも責任があり、批判する側とされる側でコミュニケーションが成立していない印象を持っています。財務省の業務も、財務省批判に影響を受けますか。松本課長 財政政策については、たしかに、様々なご意見・ご批判があります。財務省も、緊縮的なことばかり考えているわけではないのですが、極端に拡張的な財政運営もリスクがあると思います。一方的な議論の影響でスタンスが変わることはないですが、世の中の議論の状況が、政策決定プロセスで一定の影響を及ぼす面はあると思います。成田悠輔さん 財務省職員やマクロ経済学者も普通の人からは姿が見えないため、その主張が広がらず、結果的にメディアに出ている経済評論家的な人の声だけが過度に国民に届いてしまっていると思います。財務省も、少数の職員の方だけでも顔が見える形で発信すると良いのではないでしょうか。河本課長 顔を出して説明するからこそ伝わるものもあると思います。そうした問題意識から、我々もインタビューを受けましたが*1、ビビりながらではありますが始めているところなんです。成田悠輔さん お二人の記事を読ませていただいて、無根拠な断言をせずに中立的なトーンを保とうという涙ぐましい配慮が伺えました(笑)。実際、適切な財政規律の度合いなどもよく分からないですよね。公債の積上げと将来の経済成長の関係について研究はありますが、結論は出ていません。そもそも、日本のような経済規模の国がこれだけの公債を抱えた例がないので、過去のデータや事例に基づいて明確なことを言うのは無理でしょう。そうした中で何かを発信するのはとても難しいと思います。松本課長 ご指摘の記事では、債務残高が膨らむことはリスクを伴うこと、そのリスクが直ちに顕在化しなくても、リスクを大きく膨らませて将来世代に渡すこと自体が問題であることを、伝えようとしました。成田悠輔さん 適切な財政規律のラインを定量的に引

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