PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 21 [プロフィール]1989年にハーバード大学において博士号(経済学)を取得。その後、大阪大学大学院経済学研究科准教授、一橋大学国際・公共政策大学院(兼経済学研究科)准教授を経て2018年4月より中央大学法学部教授(現職)。主に財政学を研究。2022年4月より税大客員教授。[聞き手]稲葉 和洋(写真右)財務総研総務研究部財政経済計量分析室研究官2021年7月より財務省大臣官房総合政策課、2022年7月より財務総研総務研究部財政経済計量分析室にて財政の長期推計に関する研究に携わる。2023年1月より税大研究部に併任。ファイナンス 2023 Jul. 65*4) DP「日本の所得税制に関する税務データに基づく分析の意義」は、国税庁の税大HP以下URLに掲載されています。 (https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kyodokenkyu/kohyo/pdf/230100-01ST.pdf)稲葉:本年4月の共同研究の成果物第一号となるDP「日本の所得税制に関する税務データに基づく分析の意義」の刊行、お疲れ様でした。共同研究開始から1年たちますが、振り返ってみていかがですか*4。國枝:以前から税務データに基づく分析の必要性を訴えてきたところですが、国税庁が学術利用を共同研究の形で認めることとなり、我々の申告所得税データを用いた研究が採択され、2022年4月から共同研究を開始2 共同研究者へのインタビュー(1)國枝 繁樹 教授(写真左)しました。初めて学術研究に供されるデータということもあり、当初、データを学術で分析できる状態に整えることにかなり長い時間を要しました。申告所得税データは1年分で2,200万件を超えるビッグデータであり、様々な課題もありましたが、税大職員の献身的な貢献もあり、学術利用に耐えるデータに整備できたところです。税務データは、高額所得者のデータを含め、これまでのデータでは十分にカバーできていないサンプルが含まれていること、税務個票データを活用できることでそもそも個票データがなければ実行できない最新の推計手法が利用可能になったこと等、研究のために、極めて有用だと思いました。一方、税務データに含まれるのは、税務行政上必要とされる項目のみなので、研究上必要な情報がすべて得られるわけではないという課題も認識しました。推計の内容によっては、計算に非常に時間のかかるケースもありましたが、国税庁において、コンピューターの性能向上等の研究環境整備にも努めていただいています。稲葉:今回発表したDPの内容について教えてください。國枝:今回のDPは、我々のグループの研究のいわばイントロダクションといったところで、まず、財政学の研究においてなぜ税務データの利用が重要なのかを、世界における税務データの利用の状況や税務データを用いた代表的な実証研究を紹介した上で、高額所得者の所得分布の指標であるパレー卜係数の推計を説明するものです。今回の推計結果では、日本の2020年の高額所得者の所得分布のパレート係数の推計値は1.45程度となっています。先行研究では、日本の1992~2000年のパレート係数は2を超える水準でしたので、過去の水準よりも大幅に低くなっています。パレート係数は、数字が小さくなるほど、所得集中が進んでいることを意味する指標です。つまり、今回の推計結果は、超高額所得者への所得集中が、資本所得を中心に進んだことを示しています。
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