ファイナンス 2023年7月号 No.692
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(出所)森田(2015)より抜粋図表15 資本再構築のイメージ破綻金融機関のB/S非適格負債資産(デリバティブ等)適格負債資本資本再構築(債券の株式転換)損失吸収承継金融機関のB/S非適格負債資産(デリバティブ等)資本*23) 自己資本比率規制に関するQ&Aにおいて、実質破綻認定時を危機対応措置の第二号措置、第三号措置及び秩序ある処理の特定第二号措置の認定が*24) なお、日本においては破綻処理当局の権限で既存株式の無価値化を行うことはできません。邦銀が採用するであろうSPE型の破綻処理においては、主行われる場合と規定されています。要な資産・負債をブリッジ金融機関に移転しつつ元の持株会社の倒産処理を行うことで、裁判所の関与の下株式が無価値化されることになります。金融機関が仮に大きく損失を被って、債務超過に陥っている状態では、この自己資本は無価値化しているといえます。もっとも、シニア債等の適格負債で、所要自己資本と同額以上で調達を行えば、債務超過になったとしても、社債により一定程度損失吸収をしたうえで、社債を株式転換すれば、図表15のような形で、新たな株主が生まれることになります。このプロセスを「資本再構築」といいます。一般にベイルインのプロセスでは、清算時の債権者順位を尊重した形で、損失吸収・資本再構築を行うこととされており、米国やEUの破綻処理制度では発行済株式は無価値化され、図表15のように、適格負債(TLAC債)が株式転換させる形で、新たな株主となります*24。損 失損 失資本再構築の具体例を考えるうえで、米国のSPE戦略をみます。図表16は預金保険機構が作成した米国のSPE戦略の全体像です。まず、この図の左下にあるとおり、子会社に損失が発生するなどして金融機関に危機が発生したとします。この場合、米国の預金保険機構であるFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation)が管財人(レシーバー)になり、システム上重要な取引を含む子会社は、ブリッジ金融機関に移転します。親会社の損失部分および負債については、レシーバーの管理下(「レシーバーシップ」という)に移管され、主に株式と負債によりその損失を吸収します。BOX 資本再構築ベイルインの目的としては損失吸収に加え、「資本再構築」も重要です。ベイルインにおいて既存の株式が無価値化したのち、当該金融グループの業務を継続して運営するためには、新たな株主が必要となります。FSBの「主要な特性」においても、破綻処理当局が(社債等の)債権を株式転換する権限を持つ必要があるとされています。 38 ファイナンス 2023 Jul.本邦制度上の損失吸収メカニズムやタイミングは大きく異なることに留意が必要です。BⅢT2債は契約上のトリガーに基づき特定第二号措置の認定に紐づいて機械的に元本削減が行われる一方、TLAC債はこれらAT1、BⅢT2による元本削減が行われた後のタイミングで、あくまで法的な倒産手続きの中で処理が行われ、残余財産の分配が行われることになります。なお、巨大な金融機関が債務超過ではないが過小資本に陥り、特定第一号措置により資本増強がなされた場合、あくまでAT1債・BⅢT2債のPON条項は、特定第二号措置に紐づいているため、その時点で残存しているAT1債・BⅢT2債の元本削減はなされない点に注意してください*23。また、特定第一号措置の場合にはブリッジHDへの事業譲渡やそれに伴う持株会社の倒産処理も発生しないため、TLAC債による損失吸収も行われません。

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