図表13 事業譲渡後の持株会社およびブリッジHDのBS(注)厳密には持株会社の資産サイドに一定の資産があり得ますが、ここでは子会社株式のみを掲載しています。債務超過持株会社のBS譲渡対価その他外部TLACCET1(価値ゼロ)持株会社が有する子会社株をブリッジHDが購入するため預金保険機構による出資等により調達した資金で支払う(出所) 日本銀行・金融庁・預金保険機構(2022)「巨大金融機関の破綻処理制度改革の軌跡」をベースに筆者修正図表14 預金保険法における破綻処理スキームとPON条項の発動(金融危機対応措置:銀行等が対象)名称第1号措置第2号措置第3号措置(金融機関の秩序ある処理: 銀行、銀行持株会社、証券会社、保険会社、 特定第1号措置過小資本時特定第2号措置債務超過または支払停止時 (これらのおそれを含む)ブリッジHDのBS負債子会社株式預金保険機構による出資資本の状況過小資本時破綻または債務超過時破綻かつ債務超過時金融持株会社等が対象)PON条項の発動PON条項発動せずPON条項発動PON条項発動PON条項発動せずPON条項発動ファイナンス 2023 Jul. 37我が国におけるTLAC規制3.3 AT1債・BⅢT2債・TLAC債における損失吸収のタイミングる持株会社に対する損失移転が大きければ子会社である銀行Aの財務状況は健全になり、ブリッジHDから持株会社に対して支払われる銀行A株式の譲渡対価は大きくなると見込まれる点です。先ほど、子会社から持株会社への具体的な損失移転額については当局の判断にも依存するとしましたが、この損失移転額がTLAC債を保有する投資家の被る損失の程度に与える影響は必ずしも明確ではない(持株への損失移転が大きいほど損をするとは限らない)点に注意してください。なお、前述のとおり、預金保険機構が出資するブリッジHDは2年以内(最大3年以内)に引き受けていた事業を受け皿となる金融機関に再譲渡します。その時点の事業が受け皿となる金融機関にとってどれくらい魅力的であるかは、ブリッジHDへの事業譲渡までの一連のプロセスにおいてどの程度事前に損失吸収がなされたかにも依存します。TLAC債の保有者は事業譲渡対価を通じて適正な対価を得るべきである一方、ブリッジHD・預金保険機構側としては、きわめて先行きの見通しが不透明な事業を買収することになります。したがって、事業引き受け後の事業価値低下のリスクを回避しようとできるだけ安く事業を承継したいと考えることが想定されることから、危機時に事業譲渡についてどのような意思決定が行われるかは公表情報上明らかではありません。上記を踏まえ、AT1債・BⅢT2債・TLAC債で見た損失吸収のタイミングを整理します。まず、CET1比率(持株会社の連結)が5.125%を下回った場合に、AT1債のゴーイング・コンサーン・トリガーが発動します(この点は服部(2022b)を参照)。この時には、CET1比率が5.125%を上回るために必要な損失吸収額分について元本削減または株式転換が行われることになります。仮に、特定第二号措置が認定される場合、その時点で残存しているAT1債とBⅢT2債は契約上の条件に基づき元本削減されます。この関係は図表14のとおりですが、特定第二号措置が認定された段階で「実質破綻時損失吸収条項」(PON条項)が発動され、元本削減(又は株式転換)されます。これらバーゼルIII適格調達手段(AT1,BⅢT2)における損失吸収が行われた上で、最後に前述のブリッジHDへの事業譲渡と持株会社の倒産処理が行われ、倒産手続きの中でTLAC債の損失吸収が行われます。このように比較すると、特にBⅢT2債とTLAC債はともに「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」であり、期待される経済的機能は類似していますが、
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