(注) 厳密には持株会社の資産サイドに一定の資産があり得ますが、ここでは子会社株式のみを掲載しています。(注) 厳密には持株会社の資産サイドに一定の資産があり得ますが、ここでは子会社株式のみを掲載しています。持株会社のBS(ベイルイン前)子会社株式その他外部(価値ゼロ)持株会社のBS(ベイルイン後)子会社株式その他外部(価値ゼロ)債務超過(ベイルイン前)債務超過(ベイルイン後)TLACCET1AT1ベイルイン•BⅢT2により元本削減TLACCET1*20) 秩序ある処理の特定第二号措置の適用が必要であると認定された時点で契約上のトリガーが引かれることになります。*21) この譲渡対価算定のために事業価値評価を実施するための時間軸が非常に短く、事業の先行きやリスクがきわめて不透明な状況で実施されることが想*22) なお、小立(2021)では、日本のTLAC債保有者のリスクとして、(契約上のトリガーではなく)裁判所による破産手続きによって処理が行われる定されます。しかしながら具体的にどのように手続きが進むのかについて、筆者の理解では当局の公表資料上で必ずしも明らかにされていません。ことから、破産手続きが開始され弁済が行われるまでの間TLAC債を含む持株会社の債務が凍結されることを指摘しています。図表11 バーゼル規制資本(AT1/BⅢT2)のベイルイン前の持株会社のBS図表12 バーゼル規制資本(AT1/BⅢT2)ベイルイン後の持株会社のBS 36 ファイナンス 2023 Jul.させる必要があるかという当局の判断にも依存します。次に、損失を子会社である銀行Aから移転された持株会社の処理を考えます。持株会社は子会社である銀行や証券会社の損失を内部TLACにより引き受けているので、債務超過に陥っています。この段階で、図表11のような形で、まず持株会社が発行していたバーゼル規制上のAT1債、BⅢT2債について契約上のトリガーが発動されることで、元本削減又は株式転換が行われ、債務超過額は圧縮されます*20(バーゼル規制資本のベイルイン)。その結果、バーゼル規制資本のベイルインが完了した後では、持株会社の資産側には子会社株式を中心とする資産がある一方、負債側にはTLAC債(シニア債)、さらに、実質的な価値がゼロの株式(CET1)が存在しています。図表12のとおり、ベイルイン後についても、引き続き、総資産額が総負債額を下回っているのでエクイティ価値(資産–負債)がマイナスになっており、債務超過の状況です。持株会社の有する子会社株式をブリッジHDに対して譲渡する際、その譲渡対価はどの程度の水準になるか次に、持株会社が主要子会社株式等の資産をブリッジHDに対して譲渡することに焦点を当てます。まず、前述のとおり、(倒産処理をする)持株会社が有する子会社株をブリッジHDに移すのですが、持株会社はブリッジHDから譲渡する資産(主に子会社株式)に対する(現金等の)対価を受けとることになると想定されます。この時、譲渡される主要子会社(銀行等)の株式価値は必ずしもゼロではないと見込まれることに留意してください*21。なぜなら、これら主要子会社は既に持株会社に損失を移転しており、自己資本比率を回復して業務を継続できる状況にあるためです。したがって、まず、このブリッジHDへの主要子会社株式等の譲渡の後、持株会社には、資産側にブリッジHDから支払われた(現金等の)譲渡対価及びブリッジHDに移転しなかった一部資産があります(図表13の右図では、持株会社のBSの資産サイドが「子会社株式」であったところ、子会社株式を現金等の譲渡対価を受け取ることで、図表13の左図では持株会社のBSの資産サイドが「譲渡対価」になっている点に注意してください)。その一方、持株会社の負債側に、その他外部TLAC債と(価値ゼロの)株式があり、引き続き、「資産<負債」という債務超過の状態になります(図表13の左図)。この状態の持株会社を法的に倒産処理することで、(債務超過であるため)株主は全損し、TLAC債の投資家はブリッジHDから支払われた譲渡対価に加え、ブリッジHDに移転しなかった資産を原資に分配を受けることになると予想されます*22。注意していただきたい点は、最初の内部TLACによ
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