ファイナンス 2023年7月号 No.692
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主要子会社持株会社→倒産手続き銀行証券その他子会社株式等をブリッジHDへ主要子会社子会社をブリッジHDに引き継ぐ銀行図表7 ブリッジHDのBS(主要子会社の株式を購入後)預金保険機構ブリッジHD証券その他主要子会社の株式預金保険機構による出資ブリッジHDの株式出資100%負債図表6 巨大な金融機関の破綻処理のイメージ3.2 投資家からみたTLAC債のリスク 34 ファイナンス 2023 Jul.ジHDに対して出資や貸付を行います。その際、エクイティについては預金保険機構が100%出資します(なお、別途ローン等でブリッジHDが資金調達する可能性はあります)。このように、預金保険機構が出資するブリッジHDが破綻した銀行グループの株主となるため、我が国の資本再構築は、少なくとも一時的には預金保険機構を通じてなされると解釈できます(前述のとおり、資本再構築の方法は各国で異なりますが、米国の事例についてはBOXを参照してください)。図表6の通り、ブリッジHDは持株会社から主要子会社の株式を購入する一方、その資金を預金保険機構からの出資、さらに負債等で調達することになります。したがって、この状況ではブリッジHDのバランスシート(BS)は、資産側に銀行等の主要子会社株があり、負債サイドに預金保険機構からの100%出資、さらに負債等が計上されていると想定されます(図表7)。このように一時的に預金保険機構がブリッジHDを通じて破綻した金融機関グループの事業を保有することになりますが、図表8のような形で、2年以内(延長しても最大3年以内)に受け皿となる金融機関にその事業を売却することが想定されています。この売却をもって破綻処理が終了すると解釈されます。ちなみに、内部TLACを用いた子会社から持株会社への損失移転、ブリッジHDへの譲渡までの処理は、いわゆる金月処理がなされるとされています。すなわち、金融機関が破綻した場合、混乱を防ぐため、土日に必要な処理を行い、市場が開く月曜日には営業を開始できるようにすることが想定されています。巨大な金融機関の場合、その処理は複雑になりますが、実際に巨大な金融機関が破綻した場合を想定し、秩序ある処理をどう行うかについて、事前にそのプランを当局が作成することでこの担保がなされています。これを処理計画(Resolution Plan)といいます。また、巨大な金融機関においては、破綻処理に至るよりも前の経営危機に瀕した状態においてどのように意思決定を行い、財務の健全性回復を目指すかを複数のシナリオを前提に整理することが求められており、これを再建計画(Recovery Plan)といいます。これら再建計画、処理計画を総称してRRP(Recovery and Resolution Plan)とも呼ばれます。米国では、「Living will(遺言状)」とも呼ばれその一部については公表が義務付けられています。投資家からみたTLAC債のリスクを考えるため、損失移転された後の持株会社に、どのような残余財産が残るかを考えます。なお、具体的なスキームの詳細は公表されていないため、このセクションにおける説明は公表されている資料を参照した筆者の解釈であることに留意してください。服部(2023c)で指摘したとおり、TLAC規制で求められるTLACの水準は、バーゼル規制上の自己資本

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