ファイナンス 2023年7月号 No.692
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*15) 秩序ある処理の特定第二号措置による破綻処理は、債務超過の場合に加え、債務超過のおそれ、(債務に対する)支払い不能、支払い不能のおそれといった場合にも適用される可能性がありますが、ここでは簡略化のためグループ全体が債務超過に陥ったケースを前提として説明します。*14) なお、各国の破綻処理制度の構築状況を年次評価しているFSBの報告書において、日本の当局はこの資本再構築を行う権限を有しているか明らかでないとされており、破綻処理当局のベイルイン権限は「主要な特性」に沿った実施がなされていないと評価されています。FSB Resolution Report 2022 P.30 footnote 5では、「The Japanese authorities report that they are able to achieve the economic objectives of bail-in by capitalising a bridge institution to which functions have been transferred and by liquidating the residual ■rm via powers to separate assets and liabilities of a failed institution. However, it is not clear that the recapitalisation is achieved by converting claims of creditors of the failed institution into equity of that institution or of any successor in resolution as required by KA 3.5(ii)」と指摘されています。詳細は下記を参照してください。https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P081222.pdf2.6 日本の預金保険制度の貢献分3.1  本邦4SIBsに対する望ましい破綻処3  本邦4SIBsに対する破綻処理スキームのイメージ*15理の概要 32 ファイナンス 2023 Jul.綻処理当局が(社債等の)債権を株式転換する権限を持つ必要があるとされています*14。TLAC規制では、バーゼル規制で求められる自己資本の2倍以上のTLACが求められています。服部(2023a)で説明したとおり、バーゼル規制上の自己資本比率規制で求められる自己資本は、銀行の有する資産における最大損失額を見積もり、リスクを取ってよいと考える投資家から、それ以上の金額を自己資本(株式やバーゼルIII適格の劣後債等)で資金調達するというアイデアです。金融機関が仮に大きく損失を被り債務超過に陥っている場合、この自己資本は無価値化している状態といえます。もっとも、シニア債等のその他TLAC適格負債で所要自己資本と同額以上の調達を事前に行っていれば、仮に債務超過になったとしても、その他TLAC適格債として発行されていた社債等により一定程度損失を吸収したうえで、社債を株式転換すれば、新たな株主が生まれることになります。このプロセスを「資本再構築」といいます。BOXで、米国における資本再構築を説明していますが、米国では、持株会社に子会社の損失を移転し、子会社の自己資本を復活させたのち、TLAC債が株式に転換される形で資本再構築がなされる一方で、我が国のTLAC規制における資本再構築は、預金保険機構が一時的にブリッジHDに出資する形でなされます(このプロセスは次節で説明します)。その後預金保険機構が2年以内に出資した株式を民間事業者に売却することで、新たな株主の下で再スタートを切ることになりますが、それまでの間、一時的には預金保険機構が株主の役割を果たすことになります。その意味で、我が国の制度では、預金保険機構が重要な役割を果たす点が特徴ともいえます。我が国のTLAC規制の特徴は、前述のとおり、TLACを計算するにあたり、預金保険機構の貢献分が考慮されている点です。国際合意において、資本再構築のための事前のコミットメントがあればTLACとして参入可能とされており、我が国の預金保険制度はこれに従っているという整理がなされています。我が国の制度では、ブリッジHDの資本再構築が必要になった場合、一定の方法で危機対応勘定から、ブリッジHDに資金注入する仕組みが整備されています。これに伴い、図表2のとおり、我が国のTLAC規制では、預金保険機構の貢献分が、リスク・アセット比で3.5%加算されています。ここからもう少し具体的にTLAC規制における破綻処理をみていきます。図表3が、金融庁により公表された本邦4SIBsに対する望ましい破綻処理の一例です。このスキームの処理については服部(2023c)で触れましたが、ここでは預金保険機構の役割を明示したうえで、その詳細について説明します。図表3を時系列でみるため、まず、図表4のような形で、この持株会社の傘下にある銀行において、グループ全体の破綻処理が必要となるような多大な損失が発生したとしましょう(図表4における(1))。この場合、損失を持株会社に移転することで(図表4における(2))、グループ全体としては債務超過でありつつも、単体で見た子会社(銀行)自体は自己資本を回復し、業務を継続します(図表4における(3))。さらに、持株会社は子会社である銀行から多大な損失を移転されたことで持株会社単体として債務超過に陥りますが、ベイルインを通じて持株会社の株主や社債の投資家が損失を負担します(図表4における(4))。損失を移転した子会社の銀行は、預金保険機構により設立されたブリッジHDに引き継がれますが、新しく設立された持株会社では、グループ全体としても持株会社単体としても自己資本が回復することになります(図表5は、子会社

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