ファイナンス 2023年7月号 No.692
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*11) 本稿では具体的な各国の制度比較は行いませんが、2019年7月にFSBが各国におけるTLAC規制実施状況を調査した報告書では、米国においては長期負債でRWA対比6%以上の調達が定められ、EUでは直接的な規制はないものの破綻処理準備体制(resolvability)の評価において考慮されている等、各国で実際に異なる運用が行われていることが記載されています。(https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P020719.pdf) ファイナンス 2023 Jul. 31我が国におけるTLAC規制*10) 「In addition, to help ensure that a failed G-SIB has suf■cient outstanding long-term debt for absorbing losses and/or effecting a recapitalisation in resolution, there is an expectation that the sum of a G-SIBʼs resolution entity or entities (i) tier 1 and tier 2 regulatory capital instruments in the form of debt liabilities plus (ii) other TLAC-eligible instruments that are not also eligible as regulatory capital, is equal to or greater than 33% of their Minimum TLAC requirements.」(下線部は筆者が記載)としています。詳細はFSBによる「Total Loss-absorbing Capacity (TLAC) Term Sheet」を参照してください。https://www.fsb.org/wp-content/uploads/TLAC-Principles-and-Term-Sheet-for-publication-■nal.pdf*12) https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_001553.html*13) ここでの記載は吉良・橋本(2018)を参照しています。2.5 資本再構築2.4 我が国におけるTLAC規制導入の流れ金融危機以降、TBTF問題に対処するため、一連の国際金融規制改革の一環として、2015年のG20アンタルヤ・サミット*12において、グローバルにシステム上重要な金融機関が破綻したときに備えるためのTLAC規制が国際合意されました。FSBが2015年に公表した「TLACタームシート」において詳細な規定が定められており、各国(法域)においてこの規定に沿った制度整備・実施が求められました。なお、この規定を満たすことは、国際合意上、「expectation*10」という表現が用いられており、各国において具体的な運用方針が任されている項目であることから、実施状況には各国で違いがあります*11。また、以前は、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力のみで一定程度資本調達を求めるという議論(Gone-Concern Loss Absorbing Capacity, GLAC)もありましたが、その点については服部(2023c)のBOXを参照してください。我が国では、これを受け、2016年4月に「枠組み整備方針」が公表され、本邦3メガバンクに対する望ましい処理戦略が明らかにされました*13。吉良・橋本(2018)によれば、同方針について、「(1)3メガバンクの処理戦略としては、いずれも、銀行・証券等の主要子会社で発生した損失をグループ最上位の本邦持株会社に集約させて処理する『SPE(=Single Point of Entry)アプローチ』が望ましいこと、(2)持株会社が所要のTLACを外部から調達したうえ、主要子会社へあらかじめ配賦しておくこと、(3)SPEアプローチを用いた場合に想定される、預金保険法上の特定第二号措置を用いた秩序ある処理の具体的なプロセスの例等を示した」こと(p.40)と整理しています。我が国のTLAC規制のロードマップにおいては、2018年4月に公表された「枠組み整備方針」改訂も重要です。吉良・橋本(2018)は、「(1)本邦におけるTLAC規制対象金融機関の拡大、(2)海外G-SIBsの本邦子会社に対するTLAC規制実施方針、(3)国内金融機関がTLAC債等を保有した場合の自己資本比率規制上の取扱いの3点を中心に整備方針を改訂し、公表した」(p.40)と整理しています。TLAC合意上、その規制対象はG-SIBs(我が国では3メガバンク)とされていますが、D-SIBsである野村ホールディングス(HD)に対しても、この2018年のタイミングでその規制対象に追加され、3メガバンクのTLAC規制適用開始時期である2019年から2年遅れの2021年3月31日から規制適用開始となりました(G-SIBsとD-SIBsの違いについては服部(2023a)を参照してください)。日本銀行・金融庁・預金保険機構(2022)では、「本邦 D-SIB のうち、国際的な破綻処理対応の必要性が高く、かつその破綻がわが国の金融システムに与える影響が特に大きいと認められる金融機関は、金融庁により本邦 TLAC 規制の対象」としており、「野村ホールディングス株式会社がこれに該当する」と説明しています(なお、そもそも中央清算機関等、秩序ある処理(預金保険法126条の2)がカバーしない金融機関が存在する点にも注意してください)。国内における3メガバンクのTLAC規制の適用開始は2019年3月ですが、TLAC債自体は、2016年春頃に3メガバンクによる発行が始まる等、早い段階から準備が進められました。野村HDについても2018年春から発行が始まりましたが、その推移や傾向については紙面の関係上、次回の論文で記載します。これまでの論文で議論してきたとおり、ベイルインとは、株式や債券の投資家に損失を十分に吸収してもらい、納税者負担を回避することですが、ベイルインにおいて既存の株式が無価値化した後に、銀行等の主要子会社のビジネスを展開するには、新たな株主が必要となります。FSBの「主要な特性」においても、破

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