2.3 「ゴーン・コンサーン・ベースの損失*除外債務はTLAC適格シニア債の5%未満にとどめることが求められる持株会社が発行する普通社債等日本の預金保険制度の貢献分(3.5%)その他Tier1(1.5%)(4.5%)資本保全バッファー(2.5%)カウンターシクリカル・バッファーG-SIBs/D-SIBsTier2(2%)CET1いわゆる「TLAC債」相当部分TLAC(損失吸収力)TLACにはカウントされない*7) 経過措置が設定されており、3メガバンクについては2019年の導入から3年間はリスク・アセット対比16%、レバレッジ・エクスポージャー対比*8) 33%を下回った場合に機械的な罰則が規定されているわけではありませんが、監督指針上「ゴーン・コンサーン資本等の外部調達の計画の立案・実施及びモラル・ハザードが起きないようなガバナンスの枠組みの構築を含め、危機時における損失吸収・資本再構築力を高めるための方策を十分に講じているか継続的にモニタリングしていくこととする」とされており、金融庁のモニタリングが強化されることになります。*9) 銀行が破綻の危機に■しているような状況では、株式保有者は多少企業価値が回復したとしても保有株式の価値はゼロとなる可能性が高いため、イチかバチかのハイリスク・ハイリターンの行動を求める誘因が働きます。危機時におけるこうしたリスクテイクは、預金者を含むその他債権者の期待リターンを引き下げる可能性が高く、結果として預金保険への負担も大きくなる可能性が高いため、モラル・ハザードが生じる原因になります。6%の水準に設定されていました。図表2 我が国における自己資本比率規制とTLAC規制の関係バーゼル自己資本比率吸収力」の必要性 30 ファイナンス 2023 Jul.が図表2です。ここで、図表2にあるとおり、資本保全バッファーなどの資本バッファーはバーゼルIII上における自己資本比率規制に含められていますが、TLACヘの参入は認められていません。これは、危機時にはバッファーに該当する資本はすでに毀損されているとの考えによるものです。また、この図表2では「日本の預金保険制度の貢献分」が含められていますが、これについては後述します。TLAC規制では、上述のように定義した外部TLACを、リスク・アセット対比で18%、レバレッジ・エクスポージャー対比で6.75%以上に保つことを求めています*7(なお、国内では、2024年4月1日以降は6.75%から0.35%引き上げ、7.10%になる(代わりに日銀預け金をレバレッジ・エクスポージャーから控除する)予定です)。外部TLAC/リスク・アセット≧18%外部TLAC/レバレッジ・エクスポージャー≧6.75%このようにTLACは、「ゴーイング・コンサーン・キャピタル」と「ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力」によって構成されているため、これだけを見ると、例えば、CET1やAT1といったゴーイング・コンサーン・キャピタルを中心にTLAC規制を満たすということもあり得るように思えます。ですが、TLAC規制では、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力についても一定程度、調達することが期待されています*8。具体的には、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力が外部TLAC所要水準の概ね33%を超えることが期待されています。この背景には、金融機関が債務超過に陥ったような段階でも、納税者負担なく損失吸収できる余地を用意しておくという考えがあります。平時の監督で最も注目されるCET1はゴーイング・コンサーン・キャピタルですが、破綻時には株式価値の評価はほぼゼロになっていると想定されることから、CET1比率は金融機関が破綻する可能性を減らす意味では非常に有効である一方、破綻後の損失吸収力という観点では、破綻までは負債として扱われ、破綻処理の中ではエクイティ的に迅速な損失吸収の役割を果たす調達手段、すなわち、ゴーン・コンサーン・ベースの損失吸収力を準備しておくことが有効となります。また、実際に、危機時において、株式投資家だけであるとモラル・ハザードを招く可能性*9があるところ、負債保有者(BⅢT2債やTLAC債の保有者)が一定程度いることで、負債保有者による適切なガバナンスが期待されているという面もあります。監督指針では、「金融機関の破綻時においてその株主が被る損失はモラル・ハザードの原則の下、自らの出資額が上限となり、特に危機時にはモラル・ハザードを招く可能性があるため、債権者による監視を通じて金融機関の意思決定に影響力を及ぼす必要がある。さらに、負債は発行体が危機に近づくにつれて利払い等のコストが増大するため、平常時から負債を発行することによって、自らが危機に陥らないようにするためのインセンティブを強めることも期待されている」と指摘しています。
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